風景印の旅(4)        鎌田和子

 市立図書館で調べものをした帰りに、稲荷神社によってアラカシを観察しました。「風景印の旅(3)」で、ドングリのならないカシの木だという宮司の説明に納得できない私は、自分の目で確かめることに決めたのでした。今回がその初めての観察なのです。
長い穂が垂れて、雄花が咲いているのを観たのは4月下旬ごろ。枝先に雌花も出ていたのでしょうが、私の視力では雌花を見つけることはできませんでした。今日は5月19日。若葉は、アラカシらしい幅広の葉に生長していました。見上げると、枝の上部にドングリがついているではありませんか。「な〜んだ、ドングリがなってるじゃないの!」と、声を出してしまいました。あっさり疑問が解決して拍子抜けの感じです。でも、それは生まれたばかりの、まだ小さなドングリの赤ちゃん。この先、無事に生長し、立派なドングリの堅果を地上に落とすのを見届けるまではなんとも言えません。結論を出すのは早計というものでしょう。そうそう、青くて小さな可愛いドングリを写真におさめなくてはと、携帯電話のデジカメでパシャッ!
これから秋まで、どれくらいのペースで観察していくのがいいのかな、観察日記をつけるのもおもしろいかも、などと思うのでした。(2008.5.19)
その日以来、時おり、思い出しては稲荷神社に立ち寄り、アラカシのドングリの生長を観察しました。目に見えてドングリが大きくなっていくことを期待しましたが、そう簡単には行きせんでした。6月の半ば過ぎに観たときの果実の大きさは、5月のときのとあまり変わりません。観察日記をどう書けばいいのか、お手上げでした。しかし、それは正確な観察をしていなかったからなのです。アラカシの樹の下に立ち、私の目に止まった果実を、ケータイのカメラの届く範囲で写真を撮ったにすぎないのです。それに、毎回、同じ枝の果実を写したという確信はないのです。そのことに気づきましたが、後の祭りです。
それでも、約半年間、私なりに果実の生長を捉えたつもりの写真を、今改めて眺めてみると、おもしろい発見がありました。5.19の写真@にはドングリの赤ちゃんがいっぱいついていたのに、8.26のAにはドングリの形をしたものは2個しかついていません。えーっ、いつのまにドングリの赤ちゃんが消えたの?と思いながら写真をもっとよく見ると、枝の下側についている1個は生長がストップした感じです。9.22のBではもう明らかです。やっぱり、果実の全部がドングリの堅果になるのではなかったのです。私はドングリの実が大きくなっているかどうかにばかり気を取られて、果実の数が減っていることを不審に思わなかったのでしょうか。目先の興味・関心に走って、アラカシの果実の本当の生長の姿を観察していなかったということになります。
しかし、「知識」として頭の中に入っている「植物(アラカシ)は種を残すための知恵で、雄花がたくさん咲き、雌花も咲いて、果実をいっぱいつける。そうして、条件のいいところについた果実が生長し、堅果となり地上に落ち、種の継承へと向かう」ことが、こんなささやかな数枚の写真から見てとれることに驚き、ちょっぴり嬉しくなりました。
そして、10.17に撮った写真の果実がまだ青かったので、せめてその同じ果実がドングリらしく色づいたのを、観察の締めくくりに撮れたらいいなと思い、11.12に行ってみました。けれど、もうそこにドングリの姿はなく、「冬芽」Cが春を待っていたのです。常葉の樹とはいえ、一瞬も休むことなく活動を続けるアラカシの凄さを見た思いがしました。そのまま、しばらくの間、「ふっくらした緑色の冬芽」のいっぱいついたアラカシを見上げていました。
さてと、次は足下に落ちているドングリを拾うことにしました。じぃっと目を凝らすと、アラカシの殻斗も見えてきます。砂の色と似ていて見つけにくいので、まるで宝探しのような気分です。と、幾つめかに拾った殻斗の枝に、小さな殻斗が二つもついているではありませんか。小さな小さな二つの殻斗。それはきっと、あの未熟のまま生を終えた果実の殻斗にちがいありません!生を終えたのではなく、自分の役目を一つの果実に託したと考える人もいるでしょう…。種の命を守る殻斗はこんな小さいうちから堅いことを知りました。と同時に、小さな殻斗の頑張りを感じて、またも自然界の神秘にこころ打たれるのでした。
春先、福島の街中にアラカシの高木を偶然見つけました。その古木は、私に「照葉樹観察の旅」を強いたのです。幸運にも、その旅は半年後に念願の「アラカシの殻斗」Dをもたらしてくれました。手のひらに載せ、飽かず眺める、そのアラカシの殻斗は、あのウラジロガシの殻斗と、形も色合いも微妙に違うことを感じて私は満足したのでした。(2008.11.21)

@ 5/19の果実

A 8/26の果実

B 9/22の果実

C 11/12に見た冬芽

D アラカシの殻斗と堅果

 

鹿狼山から  
7 鹿狼山のオトコヨウゾメ      小幡 仁子

鹿狼山に植生する樹木や花々の変化がおもしろくてここ3年くらい、カメラを片手に通っている。月平均2,3回、年に30回くらいになるだろうか。それでも期間が開くときもあるから、四季折々の植物の姿をつぶさに捉えるところまでは至らない。
さて、オトコヨウゾメは早くから気になっていた樹木である。気になってはいたけれど、始めのころはたいした図鑑も持ってはおらず、この花の名前を長い間知らずに過ごしていた。名前が分かったのは観察会のときである。第82回の「水原地区、早春の観察会」のとき、笹森山の急斜面を登っていたら、鹿狼山と同じこの木があった。そしたら、会員のSさんが「これはオトコヨウゾメっていうのよ」と教えてくれた。へえ?なぜにこの可憐で美しい花を咲かせる木がオトコなのか?ずいぶん変わった名前だと思ったのである。
この樹木はそんなに太陽の光を欲しがらないようで、鹿狼山では登山道脇のコナラやケヤキの下に静かに白い花を咲かせている。樹高は2mくらいのものである。ガマズミの仲間だけど、あんなに固まって上を向いて誇らしげには咲かない。自己主張をしない花である。集散花序で、花はまばらである。ちょっとうつむき加減なのが風情があってなかなか良いのである。高山の会のKさんもこのオトコヨウゾメの花については、「雌しべが、マリリンモンローのお口のようで、薄紅色で綺麗」と言っていた。ルーペでのぞくと本当にそうである。 
 ところで、私が住む相馬地方ではガマズミのことをヨツズミといって、子供のころはこの実をよく食べたものである。特に美味しかったという記憶はないが、よく熟すると甘酸っぱくて食べることができた。その頃はおやつと言えばサツマイモやジャガイモばかりだったからヨツズミの実の甘酸っぱさは子供にとっては特別だったかもしれない。
このヨツズミを中部地方ではヨウゾメというらしい。なるほどヨツズミとヨウゾメは音も似ている。図鑑でオトコヨウゾメを調べると、この実が食用に適さないので「オトコ」を冠していると書いてあった。はあ、そうか。食べられないもの、美味しくないものには「オトコ」がつくのか。でも待てよ、ナツハゼなどは別名ヤマオトコというけれど、食べてはおいしいなあ。などと考えていると、植物の名前ひとつとっても奥が深いものだと思われた。
 オトコヨウゾメの花は可憐で美しいが、花が終わると枝豆を小さくしたような緑色のつやつやした実を付ける。その実は少しずつ少しずつ色を変えていくのである。黄色みを帯びたオレンジ色になったときは感動を覚えた。この実が真っ赤になる頃、鹿狼山も紅葉の季節を迎える。その後の冬枯れの里山も良いものである。

開花前 4月29日

開花 5月12日

色づく実 9月9日

赤い実 11月24日

 

高山の原生林を守る会 2008年定期総会報告

20081130日(日) 
場所 虹彩館 

2008年活動報告

 2月3日 : 自然観察会(土湯不動湯周辺)             25名
 4月27日: 自然観察会(蟹ケ沢)                 15名
 6月8日 : 植林ボランテイア・龍ケ岳観察会            21名
 6月22日: 福島県自然史博物館設立協議会総会            1名
 6月29日: 西吾妻ロープ補修ボランテイア(事前調査)        1名
 7月 6日: 西吾妻ロープ補修ボランテイア(2コース)       11名
 8月 2日: 西吾妻ロープ補修ボランテイア              2名
 8月24日: 吾妻谷地平観察会      (雨天中止)
 9月13日〜14日: 第29回東北自然保護の集い(宮城県大崎市鳴子)  1名
 10月13日: 西吾妻ロープ補修ボランテイア              2名
 10月19日: 自然観察会 高山                   15名
 10月22日: 福島森林管理署に申し入れ(高山周辺の表記等)      1名
 11月30日: 総会・自然観察会(霊山)               18名

2008年会計報告書(113日現在)

収入の部

 

 

 

支出の部

 

 

科目

予算額

決算額

 

科目

予算額

決算額

前期繰越金

83,856

83,856

 

会議費

 10,000

1,200

会費

40,000

56,000

 

郵送費

 30,000

29,780

観察会参加費

34,500

25,800

 

観察会経費

 10,000

1,750

書籍販売

0

0

 

交通費

 20,000

36,500

カンパ

0

28,842

 

苗木購入費

 45,000

36,394

謝金等

110,000

0

 

ロープ補修資材費

      -

66,910

その他

0

120,000

 

保険代

 35,000

31,200

利子

 

76

 

渉外費

 20,000

0

 

 

 

 

雑費

 30,000

722

合計

268,356

314,574

 

予備費

 68,356

0

平成20年決算額 110,118円(次年繰越金)

合計

268,356

204,456

2009年自然観察会計画

回 数

期 日

場 所

テ   ー   マ

担当

102

28日(日)

雨乞山

公設の自然観察道整備と冬の里山

奥田

103

426()

浪江室原不動滝のウラジロガシ林と高太石山

早春の照葉樹林と広葉樹林を散策します

山内

104

621()

西吾妻山

ロープ補修ボランテイアと初夏の高山植物

高橋

105

823()

達沢不動滝

安達太良の水系に残る自然林を訪ねます

山内

106

1018()

中吾妻山

人工林の現状と残されたブナ林の紅葉

高橋

107

1129()

千貫森と天井山

町おこしに利用された山の自然・総会

鈴木

議事録

    鎌田さんより希望

会報に山内さんの照葉樹について詳しい記事を書いているので、照葉樹をテーマにした観察会があってもいいのではないでしょ 

うか。

 ★回答:時期的にも良い103回を変更するのが良いのではないかと提案します。
  コース:アプローチ的に問題が少ない浪江町の大聖寺や室原地区、原町市など詳細は山内さんが検討します。

異議なし、

103回 426() 原町から浪江の照葉樹観察会(担当山内)に変更
(2)平成21年度公益信託自然保護ボランティアファンド助成事業計画について

 ★意見:
 ・私は里山クラブにも関わっているが、活動に助成を貰うようになって自分たちの自主的な活動の足かせになっているうえ助成の   

手続きが煩雑で負担になっている、高山の会では慎重におこなってほしい。
 ・会報や総会で話はあったが正直細かい点は解らないので、会費を増やしても良いから制約のない活動を希望する。
 ・緊急措置としてのボランティアなのは理解しているがポールを担ぎ上げてのボランティアについて違和感はある、木道整備推進

等の要望を是非進めてほしい。
(3)うつくしま自然展参加について?

  出展の打診有り、会津の博物館で開催、守さんの写真を出すことを検討したが、スペースの問題や趣旨に添っているかを今後確  

認していく。

質問なし
(4)会費値上げについて

 ★質問
  交通費の実費については負担していくほうがよいのでは
 ★回答
  現在も交通費の支払いは行っています。
 ★意見
  会員の多数が値上げを希望していると思うが如何でしょう。
 ★回答
  カンパ等有り(実質は赤字ですが)収支トントンで繰越金も約11万あり、今年は値上げしない方向でいきたい。(将来的には

値上げ(1000円程度?)していくようになるでしょう)
(5)幕川温泉−麦平登山ルートの検討について
  幕川温泉から高山周遊の登山客が増えてきている。麦平は湿原内を直接歩く可能性がある、木道なり迂回ルートなり対策を森林 

管理署に要望していくことが良い結果を生むかを含め、定点観測をみなさんにも個人レベルで見て貰いたいし、変化があれば報 

告して貰うとありがたい。

   ※ 森林管理署からその後の連絡で、間違っていたカツラの看板は撤去しましたとのことです。 
(6)東北自然保護集会の対応について
  東北6県持ち回りで開催、来年30回は福島県担当、「博士山を守る会」の東瀬さんと話し会津で11月頃行いたいと検討して 

いる段階である。詳細が決まったら皆様にも御協力お願いしていくところもあるかと思います。

 

 

2009年カタクリの会奥羽自然観察会計画

月 日

回数

自然観察会

のテーマ

1月18日(日)

217

冬の廻戸

西和賀町廻戸

2月8日(日)

218

雪の自然観察

西和賀町志賀来

3月22日(日)

219

春を探そう              

西和賀町川舟

4月19日(日)

220

カタクリの里歩き

西和賀町無地内・廻戸

5月17日(日)

221

夏椿と夏の渡り鳥

西和賀町白木峠

6月21日 (日)

222

新縁のブナの森

西和賀町真昼ブナ指標林

7月12日 (日)

223

ブナの森の滝巡り

西和賀町下前風景林

8月23 ()

224

和賀川遊び

西和賀町沢内和賀川源流

9月13日(日)

225

秋のブナの森

西和賀町未来の森

1018()

226

落葉とキノコ

西和賀町笹峠

11月8日 ()

227

冬の渡り鳥

西和賀町錦秋湖

12月6日(日)

228

初冬の森

西和賀町峠山

    カタクリの会は西和賀町で、自然観察会開催を目的とした会です。
    会則、会費はなく誰でも自由に参加できますが、各観察会の一ケ月前から電話でのみ受付です。

* カタクリ通信を偶数月に発行いたしており、希望者には年間千円で送付致します。  

(郵便振込みをご利用ください…02350-5-38765加人者名…カタクリの会)       

連絡先:郵便番号029-5512和賀郡西和賀町川尻41-72-15  電話&FAX0197(82)3601代表:瀬川強

 

編集後記

■今年は、ゆがんだ森林保全や里山利活用の深刻さを考えさせられる場面が多く目に付いたように思う。■忘却のかなたとなってしまっている森林生態系保護地域制度。わずかに残る広葉樹林が皆伐されてもものいわぬ森林環境税のおこぼれをもらっているだろう里山愛好家の無神経。大昔に計画した県道が圧縮財政で整備不可能となり、防災林道の名を借りて代替道路を整備する行政の無神経。「森を大切に」としたり顔でキャンペーンを繰り返しているのはその行政。そんな行政にすりよりたがる自然愛好家の急増。■こんな有様で本当に日本の森は守られるのかと暗澹たる気持ちになる。行政なんてそんなものと知ったかぶりをきめることもできるが・・・。マスコミによる自然保護キャンペーンは全盛のように思うが、実はその魂は抜け殻になってきているのではないだろうか。■森を守りたければそっとしておいてあげるのが一番と思うのだが(MS記)。