東大巓湿原植生回復ボランティア作業参加報告   高橋淳一

吾妻連峰西部の主稜線部は広範囲に湿原が存在し、多くの貴重な高山植物が見られるが、観光道路やゴンドラ等のアクセスが発達していることから、登山者の大量入山による踏付けによって植物の枯死、裸地化、土壌侵食等々深刻な状況となっていた。巻機山(新潟県)で長年植生回復に取組んで居られる専門家からも、国内で最も荒廃が進行している山域の一つではないかとの厳しい評価がされた。このような状況に対し、環境庁(現在:環境省)福島県、山形県によって1998年度より保全事業が実施され、木道設置や植生マット敷設などの取組みがなされてきた。しかし、西大巓周辺地域等では未整備であるとともに、植生復元については弥兵衛平地区など一部地域を除き、手付かずの状況となっていることから、福島県においては平成2002年に本地区の保全作業を策定、当会も県よりの要請を受け2003年9月、6名がボランティア作業に参加した。そして、今年6月3日、3年余が経過したことによる植生ネット等の劣化が顕著になってきたことから、再度の要請を受け、作業に参加協力したので以下に報告する。

当日は悪天候も予想されたが、入山口の立岩に着けば、意外や晴天。一人当たり8kg前後の器材を6名が背負い登山道に入る。針葉樹林帯に至り、1時間程で残雪が現れ、やがて登山道は見えなくなったことから、帰路を考慮し、赤布の目印を付けながら進む。歩行開始から2時間余で湿原に到達後、明月荘を経由し、正午前に現地に到着する。まもなく県の担当者3名と同じくボランティアの「吾妻山の会」3名が合流、短時間で昼食を済ませ、事前説明後、12名で作業に入る。当会は前回実施した最もデリケートな池塘崩壊部と植生ネットの未設置箇所を担当、1時間程で終了となった。幸いにも池塘は崩壊が食い止められ、裸地化した湿原では数本ではあるものの植物の発生が見られるなど作業の効果を確認、意義を実感することができた。そして継続の必要性も痛感した。作業後は現地解散となり、天元台に戻る県の担当者等と分かれ、明月荘経由で往路を辿り、途中の木道では残雪抱いた雄大な景観や澄んだ空気を堪能しながら4時には入山口に戻り、参加者全員が大満足で家路についた。

東大巓と弥平衛平

東大巓と弥平衛平

広大な弥平衛平湿原

崩壊した弥平衛平

決壊寸前の池塘はまだ無事であった

4年前に張られたネットの痕跡

僅かであるが植生回復の兆し

担ぎ上げた植生回復ネット

以前設置したネットの表土流出抑制効果

今回はネットを二枚重ねで敷いた

池塘の部分は今回も当会が担当した

設置箇所も増やしました

オオバキスミレ

ワタスゲは開花真っ盛り

タムシバの雄ずいは美しい

タケシマランとショウジョウバカマ

 

マルバルコウ   鎌田 和子

 昨年、秋も深まった頃にサイクリングロードで見つけたつる性の植物。朱色の可愛い花だ。調べたら、熱帯アメリカ原産の帰化植物らしい。タネは朝顔に似ている。どちらかというと、マメアサガオと同じように見える。庭の月桂樹の下に採取したタネを蒔いておいた。

春になり、スミレに夢中になったけれど、マルバルコウを忘れはしなかった。秋に楽しめるといいな、でも、うまく発芽するかなという期待と不安を誰にも語れず過ごしてきた。ある日、注意深くマルバルコウの発芽はまだかと月桂樹の根元を見たら、V字形の赤みを帯びた芽が出ている。これはマルバルコウの芽だ!と大喜び。すぐに踏まれないように、間違って他の草と一緒に引き抜かないようにと、囲いをする。大事に大事にしてきた。そのうち、つるが出てきたので手をくれてやる。うまく絡みつかないと手を交換するなど、私にしては異例の世話焼きを繰り返した。そうこうしているうちに、その植物のそばに似たような葉が出ていることに気がついた。あれっ、今ごろ何かな?マメアサガオかなと思ったりしたが、さほど世話を焼かず放っておいた。しばらくしてつるが伸びてきたので短い手をくれただけ。いとも粗末な扱い方だ。

ところで、サイクリングロードのほうにはマルバルコウらしい葉はでていない。他の草に負けたのか、発芽しなかったのか、わからない。昨年マルバルコウに出会ったのは偶然だった。まさに一期一会。あれ以来、帰化植物に対する私の考え方は変わった。今年、庭でマルバルコウを咲かせることができたら、あのマルバルコウの歴史は続くことになる。どこからどこを通ってやってきたタネなのか、どんな歴史を持っているマルバルコウなのか、ロマンを感じる。そんな花をぜひ咲かせたいとひとり胸を躍らせて待った。9月に入ってからというものは、マルバルコウはまだかまだかと、毎日つぼみを見つめるようになった。その緊張感がふっと途切れたある日、何気なく目を向けたら、なんと白い花が咲いているではないか。あれ〜!マルバルコウじゃなかったんだ。マメアサガオか〜。せっかく咲いた清楚なマメアサガオには悪かったが、一瞬がっかりした。待てよ。ひょっとすると後れて出てきたのがマルバルコウかも。どうやって見分ける?両者の違いは必ずあるはずだ。花の違いだけではない、何かあるはずと葉を比べてみた。よく観察したら、葉の形が違うことに気がついた。葉の基部の心形のところにわずかだが明らかな違いがあった。

粗末な扱いを受けていた方が、実はマルバルコウなのかもしれない。朱色の花が咲くのを待つしかない。気分が少し明るくなった。マメアサガオは初日に2つ咲き、翌朝は5つ、その次の日は50個も咲いた。マメアサガオが咲き出してから6日目頃に、マルバルコウのつぼみがうっすらと赤く色づいていることに気づいた。やっぱりこっちがマルバルコウだったのだ。まもなくかわいい花を開くだろうマルバルコウに、ごめん、ごめん。よく出てきてくれたね。マルバルコウの旅はまだまだ続けられるねと、心の中で声をかけていた。

 

 

鹿狼山の夏〜キツネノカミソリ〜    小幡 仁子

  今年もお盆の13日の暑い日に、キツネノカミソリを見に鹿狼山に登った。登山口から右手に折れて少し上がると、右手にコナラやクヌギの明るいなだらかな斜面が広がる。キツネノカミソリはそこに群落を作っている。花に対しての名前がいささか良くないと思うのだが、どの本にも葉が剃刀に似ているからとある。また、狐というのはこの花の独特な色合いが狐の毛衣のようだからか、あるいは薄暗い中でオレンジ色に咲くこの花のイメージが狐の怪しさと重なったものか。しかし、名前はどうあれ、鹿狼山のキツネノカミソリはオレンジ色がそう強くなく、ややピンク色がかって優しい感じである。(ああ、今年も無事に花開き、いい時期に見に来たなあ)と一人悦に入り、写真を撮る。鹿狼山ではオオバジャノヒゲの後にこのキツネノカミソリが現れる。7月の下旬にきた時はこのあたりで甘い香りがした。この香りは何だろうと思い、たくさん咲いているのはオオバジャノヒゲの白い小さな花しかなかったので、半信半疑で花を取って嗅いでみたら同じ甘い香りがした。新しい発見だった。8月になると、オオバジャノヒゲは跡形もなくなり、キツネノカミソリで斜面は占められる。植物が適地を選び、時期を逃さずに花開くという自然の営みに改めて感動したのだった。

さて、昨年のことになるが、お盆に姪が丁度帰ってきていたので、鹿狼山にキツネノカミソリがきれいに咲いているからと誘い、姉も一緒に三人で登った。姪は東京で小学校の教師をして3年になった。登り始めて間もなく、ちょっと具合が悪いという。見れば少し顔色が青いようだった。石段で腰をおろしてゆっくりした。そんなことでは子供達を連れて遠足に行ったりするのは勤まるまいよ。というと、大丈夫。仕事となれば気合いが入り、しゃきっとするから、こんなことにはならないよとの返事。ふるさとに帰り安心して、気が抜けたのだろう。キツネノカミソリの群落の前で「鹿狼山にこんなきれいな所があったんだ。子供達にも見せる!」といって喜んでいた。30人ほどいるというクラスの子供達に、ふるさと鹿狼山のキツネノカミソリの写真を見せて、どう言ったのだろうか。

 そんなことを思い出しながら再び花に目を向けると、陽光に透けて、キツネノカミソリのオレンジ色は美しい。群落は炎のようでもある。私はいつの間にか自分の中のオレンジ色の記憶をたどっていた。昔は毎日薪を燃やした。焚き火や炭火、石炭ストーブ。めらめらと動く炎は不思議と見飽きないものだった。そして、火を真ん中に家族や友達が集まった。記憶の中でオレンジ色は暖かで、しかも変化に富んでいた。そうして、行き着いたのは父の肩車で見た夕焼けのオレンジ色だった。何歳の頃だったのだろう。肩車をされていたのだから、余程幼いはずだと思う。夕方、おそらく野良仕事の帰りだったのだろう。父は私を肩車して夕日に向かって歩いていた。私はオレンジ色に沈む夕日を父の肩に乗りながら眺めていた。40数年も前の記憶である。

 花や、花の色とともに心温まる思い出があることをありがたいことだと思っている。今の生活は季節感が薄れ、冬でもエアコンやパネルヒーターなどで快適かつクリーンな暮らしである。火を焚くなどということは滅多にないし、赤々と燃える火をみんなで囲むこともない。便利にはなったが、何か寂しい。これでよいものかと思う。かといって、今の生活を変えることは難しいことだ。

 私は、月に何度か鹿狼山に登り、折々に咲く美しい花を見ながら、様々に物を思ったり、写真を撮ったりしている。それにしても、登る度に新しい発見がある。それは、季節が移り変わるので当然のことではあるが、植物の世界が奥深いということでもあろう。キツネノカミソリ一つをとってみても、ヒガンバナ科のこの花は、春には葉っぱのみが出て、夏にはその葉が枯れてしまい、花だけが咲くのである。以前はそんなことも知らずにいた。だから、オオバジャノヒゲの葉っぱをキツネノカミソリの葉っぱと思っていたのである。

たった430mの阿武隈の小さい山だけど、鹿狼山は私にとってはお宝の山になってきた。もしかするとこの山には一生かかっても分からないものがあるかもしれない。当分は鹿狼山通いが続きそうである

鹿狼山のキツネノカミソリは

         明るい雑木林の中に咲く。

キツネノカミソリの群落は、

懐かしい記憶を蘇らせてくれた。

 

高山の原生林を守る会創立20周年記念自然展開催の案内

「高山の原生林を守る会」は、1987年、吾妻連峰の一峰である高山にスキー場開発の計画が具体化したとき、高山の自然を大きく損ねるスキー場開発に疑問を持つ福島市民が集まって結成されました。高山(たかやま)は吾妻連峰の東南端に位置し、標高1804mの森深い山です。今回の自然展では土湯から高山山頂までに観察できる植物200点余りを写真で紹介するほか草木染、木の実を利用した創作、自然を描いた絵画や版画を展示します。

日時:1114日(水)〜19(月)(14日と19日は準備と後片付けです)

会場:福島市民ギャラリー(福島市置賜町4-20 TEL024-524-22562330

お願い:作品を出品していただける方を募集しています。10月末日頃までに申し込みください

ボランテア募集:会場準備と後片付け、開催期間中の受付のお手伝いをしていただける方を求めています。協力していただける方は連絡をください。

28回「東北自然保護の集い」岩手県大会(テーマ:東北の森と海を考える)案内

期日:20071110日(土)〜12(日) 会場:大沢温泉自炊部(花巻市)

参加費:(A9000円(資料代+宿泊費+懇親会費)(B2000円(資料代+懇親会費)(C1000円(資料代)

参加連絡先:望月達也(TELFAX 0198-27-5985 E-mail windy_beech_forest@yahoo.co.jp

参加を希望する方は高橋淳一又は佐藤守へ連絡ください。
開催要領

編 集 後 記

会報61号で話題になった「信夫山の展望台整備」に伴う森林伐採の件、新聞報道によると10月には福島市の風致保安林解除申請が県から許可される見通しと言う。市民有志の伐採見合わせの申し入れに対する許可は下りないので断念したとの市当局の説明はうそだったのか。解除要件の厳しい風致保安林の伐採を許可する県側の根拠を知りたいと思う。景観を整備するという発想は自然保護より開発する側にスタンスをおいた理念で市の自然保護行政の底の浅さを感じる。(MS記)。