2006年−07年 暖冬   高橋淳一

凍らない湖、雪の無いスキー場、103年振りの暖冬、等々、毎日のように話題は異常とも言える暖冬のことである。今年の冬は何回、雪が降っただろうね。職場や家族との会話でもそんなことが多くなった。2月末の気象庁のデータでは1、2月の平均気温が平年(過去10年間の平均)と比較し1℃〜2℃高いとのことであった。原因はエルニーニョ現象(南米ペルー沖の海水温度の上昇)による海流の変化ということを主張する専門家が多いが。さて真実は?一方、今冬の世界的暖冬の現象が各地で報告されると同時に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」により今世紀末の気象についてレポートが発表された。それによると、二酸化炭素を始めとする温暖化ガスの増加により年間平均気温が現在より6℃以上上昇するとのことである。また、この気温上昇に伴い、夏季には北極の氷は消滅してしまうという。日本では、本州のほとんど地域において、冬と呼べる季節の区分が出来無くなるという。当然、高山を除けば雪は見られなくなるのである。

私たちは、四季の変化による生活スタイルや文化を育んできた。特に雪国と呼ばれる地域では、雪は良きにつけ、悪しきにつけ、不可欠なものとなっている。豪雪で有名な奥会津においても今冬は結果的に悪影響が出ているという。これからが心配だとは多くの人の声である。害虫の大量発生、大規模な水不足、悲観的な予測が飛交っているが、その原因は全て人間であるのは紛れも無い事実である。

地球環境を論じた地球サミットが1992年ブラジル・リオデジャネイロの開催されてから15年余り経過しようとしているが、ことは何1つ改善されていないばかりか、より以上の悪化を招いているのである。教育現場や行政機関、政治の世界において、声高々に訴える人たち、「地球環境は大事です。」「温暖化を食い止めなければ」しかしその一方で、大型高級自動車や快適環境を求めてエネルギーの消費を加速させているのは当人達である。いま日本では少子化が問題視されている。原因は子育環境の未整備であるとのことから、支援施策が国、地方において目白押しである。しかし、環境が激変していたら、生存可能なのだろうか。生物の本能として、生存の危機を感じ取った結果による少子化で無ければよいと思うが。だれもが経験したことのない暖冬、劇的な気象変動へのターニングポイントかもしれない。そんな悲観的な思いが駆け巡った冬であった。

高山のブナ

麦平より高山山頂

 

国有林野保護監視員研修会参加報告 高橋 淳一

去る2月18日、福島森林管理署において平成18年度国有林林野保護監視員研修会が開催され、同時に行われた委嘱交付式において、当会より高橋他5名(都合により欠席1名)が新たに監視員として委嘱された。この制度は、国有林内における植物の盗採(盗掘)や不法投棄の監視そして登山者など、利用者への指導が主な職務となるボランティアで、福島森林管理署管内(郡山市以北の中通り地方の国有林が対象)では79名が委嘱されている。

最近、高山植物の大規模な盗採や登山者による踏付けが各地で報告されており、その責務は大変重いものであるが、出来る範囲の中で貢献していきたいと考えている。特に最近は対応する相手が犯罪集団と思しき集団に遭遇する場合も多くなり、身の危険を感じることさえもあるとは先輩監視員の話、また、禁止されている「かすみ網」による野鳥の捕獲も平然と行なわれているとのこと。特に高山の「鳥子平周辺」は密猟者にとっても穴場であるという。高山を活動のシンボルとする当会にとっても、寝耳に水とはまさにこのことである。

また、近年、増加傾向にある「犬連れ」などに見られるペットの問題についても規制の対象とすることの必要性を多くの監視員が訴えていた。モラルの低下が言われようになって久しいが、電線、ガードレール等の金属類の相次ぐ盗難事件が頻発する今日の状況を考慮すると、人々の監視がほとんど及ばない山林内、想像も及ばない犯罪が横行しているのかと思うと恐ろしさを覚える反面、そのような非合法な手段で市場に供給される希少動植物を買い求める愛好者が何の罪悪感も感じていないのは大きな問題ではないだろうか。監視活動などの草の根活動と相まって早急な法制度の整備、そして愛好者や販売店への啓蒙、注意喚起が必要である。

 

福島のもうひとつのブナ科林帯     山内幹夫

福島県は東西に広く、浜・中・会津と気候がそれぞれ異なる地域に分かれている。当会の自然観察会でおなじみのブナ林やコナラ・ミズナラ林は越後山脈から奥羽山脈そして阿武隈山地にかけて広がっているが、スダジイやアカガシ・ウラジロガシなどのブナ科の照葉樹林帯が浜通りの海岸線沿いにせまく分布していることも知っていただきたい。照葉樹林帯はブナやコナラ・ミズナラのような広い森林を形成することなく、海岸の崖線や丘陵部に樹叢を形成したり、防潮林・防風林や神社の森というような形で分布しているにすぎない。いわき市の波立薬師海岸や塩屋崎の樹叢は有名であるが、双相地区の海岸でも、阿武隈山地から延びた丘陵が海岸線と接する部分には照葉樹の樹叢が形成されている。ちなみに砂浜にはクロマツが繁茂している。

 照葉樹の樹種は、ブナ科のスダジイ・アカガシ・シラカシ・アラカシ・ウラジロガシ、クスノキ科のタブノキ・シロダモなどが主な高木で、ヤブツバキ・ユズリハ・アオキ・ヒサカキ・アセビ・ミヤマシキミ・トベラ・マルバシャリンバイ・ツルグミ・マルバグミなどが混ざる。落葉樹が冬枯れする季節、陽光にかがやく常緑の葉は、美しく暖かさを感じさせる。

 吾妻山系や安達太良山系の高山植物や高層湿原には氷河期の遺存種が多く存在するが、浜通りの照葉樹林帯は、氷河期か終焉し縄文時代早期後半から前期(約7000年〜5000年前)にかけての温暖期に形成されたものと推定されている。約6000年前頃は地球の温暖化がピークに達し、海水面が今よりプラス3m上昇したことが知られている。その頃までにシイ・カシ・ツバキ・クスノキなどの常緑広葉樹を指標とする照葉樹林帯が広がり、東北地方は海岸線沿いに青森まで北上した。現在福島県の浜通りに残る樹林帯は、そのような縄文海進期と呼ばれる温暖期の名残ということになる。

 浜通りの照葉樹林帯は、海岸に接しては純粋な樹叢を形成するが、海岸から少し離れると落葉樹との混在となる。それでも国道6号線から東では照葉樹の分布密度が高いが、西側では極端に低くなる。例として、楢葉町の天神岬南斜面の様子を木戸川河口付近の南岸から見ると、海蝕崖から西に約300mまでは純粋な照葉樹の樹叢であるが、それより西になると落葉樹との混交を呈する。その林分は明らかである。照葉樹の樹種も海岸に接しているほど多い。特にタブノキ・トベラ・マルバシャリンバイ・ツルグミ・マルバグミはほとんどが海岸に接した位置に植生している。アカガシやウラジロガシ、シロダモは山麓近くでも見ることができる。縄文時代前期の頃は、海岸線から阿武隈山地山麓にかけては照葉樹林が広がっていたものが、後世の開発に伴う伐採の繰り返しによって、範囲も狭まり現在のような状況になったものであろう。

 皆さんもぜひ一度は海岸の植生をご覧になっていただきたい。夏の浜にはハマヒルガオやハマエンドウ等の海浜植物が満開で、海に面した丘陵の麓にはマルバシャリンバイ・トベラの花が咲き、秋にはハマギクやコハマギク、ツワブキの花が美しい。そして、海沿いの丘陵斜面や防潮林・神社の森などに狭く残された照葉樹の樹叢は、その植生史的意味合いからも、今後保護されてしかるべきものということに考え及んでいただければ幸いである。

楢葉町山田浜海岸のツワブキ

楢葉町波倉稲荷神社のスダジイ林

 

20周年記念会報の原稿を募集しています!!!

自然保護に関する意見、評論、思い出、論文、観察記録、エッセイ、写真、イラスト等をお寄せください。字数は1200字程度とします(内容によりこれより多くてもかまいません)。

締め切り:531

編 集 後 記

■市民スキー場として親しまれた高湯温泉「吾妻スキー場」が今年、休止となった。リフトを活用すれば、2時間足らずで、吾妻の主稜線に行くことができることから、土日は多くの山スキー家で賑わっていたが、一変し、静寂が支配する世界となった。そして、2時間以上も余計に費やさなければ辿り着けないが、これまでにない感動や充実感を味わうことができた。来年は営業の再開を検討しているとの噂もあるがいかに?(JT記)。