植物和名考(T)      河上鐐治

 親は子供の名前を付けるとき、将来は斯く育ってもらいたいと願いを込めた命名しています。植物の名称も何らかの意味を持って命名されていて、古くは「本草綱目」(中国、明の李時珍著。1596年刊)、「本草和名」(日本最古、918年刊)、新しいものとしては牧野富太郎著の「牧野新日本植物図鑑」(1961年)などが挙げられます。それが現在は全てカタカナ表記にすることに定められ、表意文字に親しんできた者としてカタカナ表記に不満を持ち、漢字表記にすればその植物に対する興味もより増すのではないかと思っていました。そこでさし当たって吾妻山周辺の主な樹木の和名を考察してみます。

 もとより私は植物については全くの素人で学問的知識もないので、手じかの書物から拾い集めそれらの書き写しであることを最初にお断りします。

 当「高山の原生林を守る会」発足の基になったのは、高山のスキー場開発に伴うブナ林伐採反対運動にあるので、先ずブナおよびその仲間から取り上げてみます。

    参考資料 牧野 原色牧野日本植物図鑑 北隆館

         語源 植物和名の語源 深津 正著 八坂書房

         広辞苑 第二版補訂版 岩波書店

         山渓  日本の高山植物 山と渓谷社

 1 ブナノキ(ブナ、シロブナ、ソバグリ) *括弧内別名   ぶな科 ブナ属 

    ?、椈、山毛欅

 牧野図鑑: 意味不明、?、椈は日本の俗字、と記されている。

          ソバグリ 実が三稜で蕎麦の実に似ていることから。

 2 コナラ(ナラ、ホウス)、ミズナラ(オオナラ)       ぶな科 コナラ属

    楢(日本の俗字) 枹樹(正式の中国名)那良

      広義には、コナラ、ミズナラ、カシワ、クヌギ、アベマキ

      狭義には、コナラ、ミズナラをいい、カシワ、クヌギはカシとする。

      牧野: 水楢  材に多量の水を含み、た易く燃えないから。

      語源: 古名 ははそ(ほうそ)ミズナラに対してコナラ(ナラ)は葉が細いので「葉細のなら」からハホソ→ハハソになったと思われる。 

 3 クヌギ                          ぶな科 コナラ属

    橡 椚 櫟 櫪 椢  

    古名 つるばみ(橡) 

    牧野: 国木の意味

 

思い出して    伊藤順子

  忘れていないだろうか

数十億光年の旅して誕生した星の
太古の森の水蒸気からぼくらは生まれ
地を覆う絨毛のような森に育てられ
この大地は父であり母であり
そしてかけがえのない子供でもあることを

削られる大地は ぼくらの皮膚の痛み
伐られる森は ぼくらののどの乾き

思い出して

ぼくらは木であり人であり 鳥であり草であり
蝶であり魚であり 象であり蜥蜴であり
猿であり犬であり ミミズであり石であり
苔であり蟻であることを

 

 

会津森林計画における森林生態系保護地域及び緑の回廊設定委員会

関東森林管理局では本年度中に会津地方における森林生態系保護地域と緑の回廊の設定を行うことになり、約2年前から学識経験者による「調査検討委員会」を設置、検討しており昨年末に答申が出されました。具体的な設定に当たって新たに検討委員会として学識経験者、林業関係、自然保護、自治体、国機関、報道機関で構成される設定委員会が設置されました。自然保護関係からは福島県自然保護協会(星一彰)と高山の原生林を守る会(高橋淳一)の2団体が委嘱されました。

224日(金)に第1回目の設定委員会が開催され、関東森林管理局からの設定案が示されました。設定委員会での関東森林管理局からの提案と質疑内容の概要については以下の通りです。
 

1.      関東森林管理局の設定案

(1)森林生態系保護地域設定案

保護地域名

保存地区(コア)ha

保全利用地区(バッファ)ha

合計ha

会津山地森林生態系保護地域

5,860.11

77,712.89

83,573

飯豊山森林生態系保護地域

1,771.26(拡張)

 

吾妻山森林生態系保護地域

278.05(拡張)

 

l        会津山地生態系保護地域において保存地区が少ないのは、地元住民による山菜採取が行なわれており、地元要望を踏まえ、保全利用地区としたためである。

(2)緑の回廊の設定について

l        会津、飯豊、吾妻の3生態系保護地域以外については、分断する森林についても緑の回廊として設定する。

1.      各委員からの質問・意見

(1)会津山地森林生態系保護地域設定案について

l        日本最大の森林生態系保護地域として設定することは、喜ばしいことである。日本だけに留まらず、世界の宝として保全されるべきと考える。しかし、コアエリアが極めてすくないのは残念である。地元住民の山菜採取については、「共用林野契約」の関係から、このようになったことと思うが、契約の内容を提示頂き、今後の契約継続の必要可否についても整理したうえで、コアエリアへの積極編入を要望したい。(高山:高橋)

l        本地域の生態系の意義を問われる内容であり、コアの拡張が不可欠である。共用林野の問題についても踏み込んだ議論をすべきである。(学識経験者)

l        保存地区となった場合は山菜採取は不可能か、現実問題として、御神楽岳周辺部では現在、山菜採取や渓流つりを実施している。(自治体)

l        只見町では山に依存して生活してきた。これまでの権利関係については継続を切望する。(自治体)

l        森林生態系の法的根拠並び自然公園法との関連伺う。また、今回のことは、数年前の違法伐採に関連しているか? 

l        御神楽岳周辺部はすでに保護林となっていることから、コアと同等の扱いとなっている。また、森林生態系保護地域は林野長の長官通達に基づき、当局側が設定するのであり、自然公園法とは特段関連はない。また、違法伐採から起因したものではない(関東森林管理局)。

l        共用林野契約については、受益者に対して、林産物の提供だけを目的にするのでは無く、国有林の管理・巡視という面でも貢献いただいている。このことにより、違法行為に対しても一定の防止効果となっている。なお、この件(コアの拡張)については検討していきたい(関東森林管理局)

(2)飯豊山・吾妻山森林生態系保護地域の拡張について

l        飯豊山については、設定作業時に福島県側からの自然保護関係の委員が無く、非常に小面積での設定であったが、今回、拡充されることは好ましい。また、吾妻山については、二十日平付近について、民有林も(姥ケ森)含め、拡充が必要である。(星一彰・県協会長)

l        飯豊山は当初設定において、福島県側については、ほんの僅かの面積であったが、今回、拡張案が示されたことは大変ありがたい。今後、現地調査等も実施し、具体的な提案をしていきたい。また、吾妻山については、二十日平地区はツキノワグマの棲息地として重要であり、中吾妻地区の171林班はブナの大径木がまとまって残る、吾妻唯一の地域であるので、是非との生態系保護地域に編入頂きたい。(高橋)

l        具体的提案については、検討させていただく。(関東森林管理局)

(3)緑の回廊の設定について

l        これだけの規模において、緑の回廊となることは画期的ある。たとえ、飛地としても、民有林にて、つながっていることに意義がある。(学識経験者)

l        緑の回廊については、メリットが説明されたが、デメリットも把握すべきでは。(森林組合)

l        緑の回廊に指定された場合、狩猟の制限はあるか。(猟友会)

l        大型野生動物の保護も理解できるが、最近林地周辺部においては、動物被害が頻発しており、尾瀬周辺地区においては、野生鹿による食害が発生し、観光面でも影響が懸念される。この点についても、適切な対応を願う。(自治体)

l        只見町の浅草岳において、森林生態系保護地域が分断されたのは何故か?緑の回廊とするのであれば、生態系保護地域とすべきでは。(学識経験者)

l         今回の会津の森林計画策定にあたっては、何故このようにするかを明確にすることとし、高齢級の天然林は禁伐を明記すべきである。(NACS-J横山)

今回の設定案に対する意見・提案を3月末日まで事務局(社団法人日本森林技術協会)に提出するよう求められたため、高山の原生林を守る会事務局で当該地区の林班図に基づいて検討し、以下の提案書を提出しました。なお、今後は会津地区の自然保護グループとの連携を密にしてその意見を設定委員会に反映できるよう提案していく予定です。

林野庁 関東森林管理局長 様

社団法人日本森林技術協会 様

平成18年3月28日 

                                     高山の原生林を守る会

                                                                      代表 高        

会津森林計画区における森林生態系保護地域設定及び会津山地緑の回廊設定に関する提案書

           

 「会津森林計画区における森林生態系保護地域及び会津山地緑の回廊設定委員会」発足にあたりましては、設定委員に委嘱いただき感謝申し上げます。

第1回委員会にて、提案されました設定案に対し、下記の意見を申し述べますのでよろしくお取り計らい願います。

1.設定の基本方針について

設定の基本方針につきましては、学識経験者から成る「会津地域の国有林の保全に係る調査検討委員会」の答申を全面的に支持いたします。特に南会津地域や既設「飯豊山周辺森林生態系保護地域」周辺部には、101年以上の高齢級天然林が広範囲に分布していることから、これら森林は極力、森林生態系保護地域に設定することが必要であります。次に、既設の「吾妻山周辺森林生態系保護地域」につきましては、優れた天然林(ブナ林)や生態系上、保全すべき箇所について拡張案に含まれていないことから、これらの箇所についても含めることが必要であります。また、森林生態系以外の森林につきましては、「緑の回廊」に設定することが提案されましたが、大型野生動物の主な棲息地である101年以上の高齢級天然林は各山域の稜線部に多く、生態系保護地域と同等の機能維持を図る上でも機能類型の積極的な見直しが必要と考えます。

 なお、具体的な提案、要望は以下のとおりであります。

2.会津山地森林生態系保護地域(仮称)設定方針案について

   8万3千haを越える最大級の森林生態系保護地域となることが提案されましたことは画期的なことであります。しかし、保存地区が極めて少ない設定案となっていることから、共用林野契約の有無を検証し、契約地以外は保存地区とすることを切望いたします。また、設定案に含まれない隣接地にも高齢級天然林が多く残ることから、これらの森林の編入についても再検討を要望いたします。これについては、共用林野契約地についても、利用実態による契約の見直しや、弾力的な保護地域の運用方針の適用等により、設定地域の拡大を図られますよう要望します。

3.飯豊山周辺森林生態系保護地域の拡張案について

   本地域につきましては、当初設定時の面積が極めて少ない状況でありましたことから、今回の拡張は歓迎するところであります。しかし、高陽山、大塚山周辺部や栂峰、飯森山には拡張案と同等の天然林が残されており、連続性を確保する上でも大規模な拡張を要望いたします。

4.吾妻山周辺森林生態系保護地域の拡張案について

   拡張案に含まれない山域の拡張を要望いたします。

5.会津山地緑の回廊(仮称)設定について

   緑の回廊の設定においては、機能類型の変更は行なわないことが規定されております。しかし、設定案における「1.伐採に関する事項 (2)天然林」の記載において、高齢級天然林や地域を代表づける種を持って構成する天然林は例外を除き木材生産目的の伐採しないことが明記されており、実質的には機能類型の自然維持タイプと同等の管理となることから、森林計画の策定に合わせ機能類型の積極的な変更を要望いたします。

 

編 集 後 記

当会が「会津山地森林生態系保護地域設定委員」に自然保護グループとして委嘱された。県自然保護協会と2団体のみなので、関東森林管理局の認知度が高いということが証明されことで善しとすべきなのかもしれないが、対象地域の会津には自然保護活動実績十分なグループが少なくとも2団体あるにもかかわらず委嘱されていないことに疑問を持っている。ともあれ、委嘱された当会の責任はその分、大きいと考えられる。9月には決定されるというから、これからは会津の山詣でに集中しようかと思っている。