特別寄稿               私の夢,緑の回廊

人と自然の共存をめざして

                        塩川町 山田恒人

1.30年後の回想

郷里の福島を離れて、30年ぶりに帰省するにあたり那須インターから4号国道へ降りて福島まで走る事にした。

9月と言っても緑濃季節、高速道路から見る風景とは違い周りの風景が次々と目の前こ飛んでくる。ふと気がつくと反対側の車線がいつしかだんだん離れ、中央分離帯が広くなっている事に気づいた、そしていつか左右とも林となり広葉樹のトンネルを走っていた。なるほどこれが話題の「緑の回廊」の入り口かと気づいて間もなく福島県の境に入ろうとしていた。

カーブ半径は大きく、広い車道には追越し車線がゆったり取ってある。対向車がないので、対向車の気苦労は全くないのは気楽だ。小さなトンネルがやたら多い感じがしないでもないが、これもこの道の特徴か。注意して見ると、途中に村落名の書いた標識があって引込み道路が出来ている。二つ目の追い越し車線の中程に10a程の広場はトイレ休憩が出来る森林駅があった。県境から20分も走った頃から,右側の林の木々が途切れ途切れとなって日差しが見える。樹木の間を車の走る様子も見えて白河インターの案内表示が見えた頃、対向車であることに気づく。間もなく上下2車線になり対向車がまぶしく、忙しない車の往来に圧倒されるような車の流れのなかで、あの緑のトンネルは幻だったのか。

夢・緑の回廊図 −白河の関を通る


2.私の緑の回廊

東北森林管理局では平成12年度から広大なしかも夢のある自然保護活動の一つとして「緑の回廊」を設定して実質的な運用に入っている。この自然保護林制度の種類として6項目,回廊の名称は4箇所で約175,000ha、距離にして835Kmと壮大な面積です。ここまでの成果を拳げるに森林管理局は勿論、多くの一般市民団体のたゆまぬ活動があった事は知る人ぞ知るでしよう。ところがこの東北地方の緑の回廊(人と自然との共存をめざして)のタイトルの中には福島県は入っていない(一部吾妻山系ははいる)。これは行政上の仕切りの問題かも知れませんが、私個人としては不足であるが、とにかく将来への莫大な遺産になる事は問違いない。

「高山の原生林を守る会」の観察会で森林の保護にあたってグリーンベルトの構築について話題にした事があったが、今後の課題や、問題を含みながらもその実現が意外と早かった事を喜んでいるのは私1人ではないでしょう。

問題点と言えば新たに高山の森林計面の見直しについては高橋淳一氏によって「緑の回廊」についての経過がまとめてあり、更なる提案事項も機関誌「高山」に掲載されていますので改めてご一読ください。私の夢の実践は出来なかったし活字にもしてなかった。ただ私の「シダ植物の世界」のなかで(p129〜131)「21世紀は待つ時代」にしたいこと、県内を走る「奥羽山脈を背骨とした日本海から太平洋への小骨(グリーンベルト)による緑のつながり」が欲しい事を提案した。

本文の前文にある「30年後の回想」の文は那須山系から太平洋につながる保護林を、想定して栃木県那須町から白河へ入る路の様子を描写したつもりです。詳しい説明は省きますが福島県の回廊について示し少し説明を加えて、夢を残しておきます。

グリーンベルトの概念図
(福島県を主に示すが国定公園、保全地域などの指定は考慮していないが、いずれグリーンベルトに含む)

 

この内容が「高山の原生林を守る会」の記念号に花を添えられれば幸いです。なおここで挙げる内容で特に強調したい具体杓な内容が2つあります。

一つは回廊が海岸まで伸びている事、二つは一般市民の居住者の生活との共存した回廊の二つです。

(1)太平洋から日本海まで

東北の緑の回廊が実現した事は大きな骨子が出来たと思いますが、今後はどうしても海岸へのつながりがあってより充実した植生の保護になると考えます。これは魚業とも係わりを持つ事、海岸植物の保護と、海岸そのものの保全にも貢献出来ます。さらに海岸生物の回復や保護に役たつことでしよう。現在遺伝子保護を挙げている地域については出来るだけ広い範囲を確保する事が必要でしょう。以上の事は現在設定された回廊よりも直接市民生活に係る事から多くの困難が伴うことも予想されますが、いずれ理解を得られる時代になるでしょう。

(2)森と人との共存

福島県では都市移転に伴う「森に沈む都市」という都市計画を挙げていますが、この考えは今後広くは理想郷の設立を目ざすことは意味がありロマンに満ちた目標と思います。

この実現には一般市民の意識の変化が求められます。それは「森と人との共存」にあたって現在の物質社会の中で次の質間にどれだけ答えられるでしょうか。

「自然を生かしたり、自然に身をまかせたり、見守ったり、一本の樹のためにじっと待つ努力ができますか」私の考える「グリーンベルト」の設定には、該当する住民の方にも生活スタイルや考え方の変更が求められます。しかし私はかなり柔軟なもので今の生活スタイルをすっかり変えるような方法ではありません。また「グリーンベルト」の隣接地域を干渉地帯として住む人々にも協力をお願いします。このためにはこうした設定ゾーンの地域を見て,住んでみたいと思う景観環境作りが大事です。

3.終わりに

図2は福島県の太平洋から新潟県の日本海を結んだグリーンベルトの構想図です。この構想は官民一体と行政の縦横が自由に協力できる体制が必要です。その一つとして森林行政上の区分の緩和または廃止、農地の制限の緩和、農地の生産活動上の継続と生活維持のための社会的援助などは特に大切な要素になるでしょう。

現在の景勝地と呼ばれる名山、名勝地の多くは観光ルートとしての利用のために解放(国民の共有財産)されていますが観光優先の山野散策が主流となっています。このこと自体はこれで良いとしながらも今後景観鑑賞や森林浴の林野、一般登山の山岳,そして自然学習や学術観察の山々の3つに区分したい。この区分理由は、景観鑑賞などの森林は、人口の工作物の入った現在のトレツキングコースなどとし,登山の山岳地はいわゆる現在の登山道をあてる。最後の自然学習や学術観察は現在の登山道の一部を新設する。ただしこのコースは利用の届け制とし路の刈り払いは全く行わない新しい形の山路とします。路の荒廃が予想される場合は一定期間閉鎖される事があります。この仕組みは「緑の回廊」には是非欲しいものです。

このような考えの背景には、現在の登山道の利用状況、登山道の設置と補修の仕方や管理面から将来の路(登山道)に危機感を抱く者としての発想です。

具体的なさらなる細案の内容はまだまだ尽きませんが、森林や自然保護に携わる関係者の方々になにか参考になれば至福の至りです。

 

引用資料

1.「緑の回廊」指定と「高山」の森林計画の見直しについて,高橋淳一

                   高山(高山の原生林を守る会).49号2004.p5

2.東北地方の緑の回廊−人と自然との共生をめざして−

         東北森林管理局計画(秋田県)

3.シダ植物の世界−太古のみどりを見つめて−       2002年 山田恒人

                       歴春ふくしま文庫16:歴史春秋出版株式会社(会津若松市)