「緑の回廊」指定と「高山」の森林計画の見直しについて     
                                           高橋 淳一

麦平から高山

「緑の回廊」という言葉をご存知でしょうか?これは、岩手県の「カタクリの会」代表、瀬川強氏が長年提唱し、1995年当時、青森営林局計画課長であった中岡茂氏(現東北森林管理局計画部長)の尽力により、制度化された林野庁における森林保護施策の一つです。これによれば、山域毎に各種制度(自然公園法、森林法、林野庁通達等)によって保護されたきた森林を連結して、森林の連続性を確保することにより、大型野生動物等の相互交流を促進し、遺伝子の多様性等を保全することを主な目的としています。具体的な保護対策としては、既存の7種の保護林(森林生態系保護地域等)を連結する森林において、天然林(自然林=ブナ林・ミズナラ林等)は原則禁伐、人工林は段階的に天然林に移行していくというものです。また、この連結する森林区域は2km以上の幅を確保することが定められています。

当会としては、制度化される以前から交流のあった瀬川氏に共鳴し、機会を捉えては吾妻山周辺地域の設定を関係当局へ要望してきましたが、本年3月、念願がかない「鳥海朝日・飯豊吾妻緑の回廊」として設定されました。その概要は、蔵王山、吾妻山、飯豊山、朝日山、月山、鳥海山等の山域を連結するもので距離にして260kmに及びます。また、既存の「奥羽山脈緑の回廊、(八甲田山〜蔵王山間400km)」にも接続していることから、「白神八甲田緑の回廊(50km)」を含めた、総延長は710km、総面積にして165,000haに達します。さらに、設定区域内には、植林活動をすすめている鳩峰峠周辺地域も含まれており、今後の活動においても励みなるものと思います。今後、この制度がさらに拡充され、より多くの森林の保護を働きかけていくことは当然でありますが、制度的には、林野庁の内部規定の範囲であり、様々な利害関係との調整においては、法的拘束力が脆弱なことを認識し、強い関心を持ちつづけて行きたいと考えております。

 次に、当会発足の原点であります「高山」の森林計画見直しについて、触れたいと思います。1987年当時、経済振興策の一つとして「高山スキー場開発計画」が福島市により進められました。これに対し、災害発生の危険性、原生的自然環境の喪失等々の理由から当会が発足し、18,000人を超える反対署名活動を始め、様々な活動を実施してきましたが、当時はバブル景気による、リゾート施設建設ブームが起こり県内でも多くのスキー場が開設されました。しかし、景気の低迷による消費の落ちこみはこれらリゾート産業を直撃し、多額の債務による大手企業の撤退や施設の閉鎖に追い込まれ、誘致した地元自治体にとっても大きな負担を強いられる結果となりました。このような状況下において、「高山」は幸いにもスキー場開発の難を逃れ、白神、知床を始めとする森林保護の高まりによる、保護林制度の拡充によって制度化された、「森林生態系保護地域」の指定を受け1995年、山頂部から標高1250m付近までが保護地域として設定されました。

しかし、ブナ林の多くは、いまだ林野庁における森林利用の基本計画ともいうべき、「国有林の地域管理経営計画」、「国有林施行実施計画」等の森林計画において、スキー場として開発可能な「森林林空間利用タイプ」(注1)、に分類されていることから、「自然維持タイプ」(注2)、へと、計画の見直しを実現しなければ安心できる状況にはなりません。この計画は林野庁(実務は関東森林管理局)が5年毎に計画を策定し、公告縦覧(一般国民の意見を把握)を経て決定しますが、その作業が今年度に実施される予定となっております。これは、5年前にも実施され、公告縦覧に伴う意見書(自然維持タイプへの編入要望)の提出や要望活動を実施いたしましたが、当時の状況では、そこまでの機運の高まりも無く、実現できませんでした。しかし、今日の状況は自然志向の高まりが各方面に浸透し、当時、開発の推進役であった観光産業関係者でさえ、森林の保全に意識が変化してきていることを考慮すれば、今回は絶好の機会であると判断されます。そこで、当会では、これまで以上の要望活動等の働きかけを積極的に実施して行きたいと考えており、会員の皆様からの、更なるご強力、ご支援をお願いいたします。

注1:国有林の機能分類を行うもので、スキー場やリゾートホテルなどのリゾート施設に利用することの出来る森林

注2:上記機能分類において禁伐的扱いを行う森林。勿論、開発行為はできない。

 

福島市水原で見かけた自然断章 −クマガイソウまつりのことも含めて

                                      山内 幹夫

 水原地区は、福島市松川町の西側、水原川に沿ったのどかな田園地帯。私自身としては、渓流釣りをしていた頃、源流まで山女や岩魚を求めて何度も遡行した懐かしい所でもある。5月中旬、水原川と東八川の分岐にあたる狼ケ森に車を停めて「クマガイソウまつり」に向けて林道を歩きながら川面を眺めてそのような想い出にひたった。

 狼ケ森から渓流沿いの道をニシキギやヒメコウゾ・ミツバウツギ・ベニバナツクバネウツギ・ラショウモンカズラ・ルリソウ等の花を見ながら歩き、会場に着いた頃には、受付や出店前はすでに人でごったがえしていた。この行事が「水原の自然を守る会」が催す観察行事と考えていた私は、改めてこれは観光的な「まつり」だということを知らされた思いだった。「まつり」の内容については細々としたコメントを控えるが、植生豊かな山肌を幅広く削って通したルートと鉄条網にかこまれたクマガイソウ群落、水原の自然を守る啓蒙より観光案内と土産物販売が主な活動という現実を見たとき、福島市の観光スポット化以外の何物でもないという印象が拭えなかった。「まつり」という形での貴重植物公開をすれば、当然観光地化は避けられず、雄国沼や駒止湿原・尾瀬と同じ運命を辿らざるを得ず、しかも群落地が小規模で保護組織も小さいとなれば多くの観光客によるプレッシャーにより大きな影響を受ける危険も孕んでいる。

 「まつり」の帰り道に時間をかけて水原川源流域を観察したが、渓流沿いの林道から、対岸の低位段丘面にヤマブキソウの群落を確認し、川を渡って着いたところ、ヤマブキソウ・ルリソウ・ヤマエンゴサク・ルイヨウボタン・ラショウモンカズラ・ニリンソウ・ユキザサ・ミヤマエンレイソウなどが一面に咲いていた。さらに、別の道から橋を渡って東側の山中を奥深く探索したところ、谷頭部や狭い沢沿いに2箇所ヤマブキソウの群落が確認された。なんと水原川源流域は広く貴重な自然の宝庫だったのである。「クマガイソウまつり」会場はその一部に過ぎなかったのだ。最初に確認した低位段丘面のヤマブキソウ・ルリソウ等の群落地には、測量杭が打たれ、ピンクや青のリボンテープが付けられた目印が各所に立っていた。狼ケ森に戻って地元の人に聞けばここに砂防ダムの計画があるとのこと。計画の詳細は不明だが、現地測量の段階まで来ているとなれば、予算がカットされなければ施工はそう遠くない時期と思われる。堤体が築かれれば低位段丘面の群落は壊滅するだろう。

 拙文で「水原の自然を守る会」を批判するつもりは毛頭ない。しかし、クマガイソウ群落エリアだけでなく、それを含む水原川源流域一帯には保全してもらいたい植生が多く分布しており、会としても是非その調査を行い保護活動に取り組んでいただきたいという希望を述べたまでである。

本年3月26日付けで「福島県野生動植物の保護に関する条例」が公布され、第1章は即日施行、第2章以下についても平成17年4月1日施行の運びとなった。県としても野生動植物保護基本方針を早く策定してほしい。水原地区を例にとっても、風前の灯火に近い植生が確認されているのだ。このことは、地域住民と行政とが一致協力しないとなかなか実らない作業と思えるがいかがであろうか。


かわりゆく社会     

                          平成16年6月13日  渡辺 仁     

                      

里山の萌黄模様

 自然科学的に見ても、地域的な部分から地球規模に至るまで、森林環境の変化が著しい現代ですが、社会における「森林環境」の位置付けも、自然科学的変容に刺激される形で、少なくとも表面的には変革の真っ只中にあると思います。

国内の最近の動向を見てみます。2001年6月にそれまでの「林業基本法」を改正した形の「森林・林業基本法」が制定され、「森林の多面的機能の持続的発揮」という方向性が示されました。その後02年3月には日本の自然環境施策のトータルプランとされる「新・生物多様性国家戦略」が策定。02年12月には、損なわれた自然環境を再生して維持するための「自然再生推進法」。同じ12月には持続可能な循環型社会に向かうための「バイオマス・ニッポン総合戦略」が示されました。03年6月には、日本版の森林認証制度(国際的には1993年からFSCがある)である「『緑の循環』認証会議(SGEC)」がスタートしました。7月には環境教育を法的にバックアップするための「環境教育推進法」が成立しました。また今年の5月には、侵略的外来種による生態系や農作物への被害を防ぐための「特定外来生物法(外来種対策法)」が成立したところです。そして、森林の多面的機能の一種として、森林の中での精神的治療を研究する「森林セラピー研究会」というものが立ち上がり、日本における「森林療法」の研究が本格的に動き出しました。また現在、「野生生物保護法」の制定に向けた取り組みが行われています。

加えて世界規模の条約ですが、「気候変動枠組条約」の「京都議定書(1997)」は、「二酸化炭素の森林による吸収枠」という面からも森林と関連の深いルールになっていて、このことによって「地球温暖化防止のための」森づくりということがあちこちでいわれるようになってきました。議定書はまだ発効されていませんが。

こうして言葉を並べてみると、改めて変革の時代であると感じます。もちろん、これらの法律や指針には、様々な問題や欠点もあるでしょうが、これらがきちんと効力を発揮することで、少なくとも「自然破壊の世紀」からの軌道修正を図ることはできるのではないかと思います。

さて、このような決め事の中で、実際に行動していくのは私たち一人ひとりの人間です。一昔前の自然保護では、「政府対市民」あるいは「企業対市民」といった集団対立構図のものが殆どだったと思いますが、現代の諸問題は「市民対市民」であったり、「個人の内面的な葛藤」であったりすることが多くなってきたように思います。もちろん、企業や政府の問題もまだまだありますが、そこにいる一人ひとりが人生に何を求めていくかという価値観が問われている時代なのかと思います。

 

 

2004年カタクリの会奥羽自然観察会計画(7月〜12月)

 

月 日

回数

自然観察会のテーマ

7月11日(日)

163

和賀川を歩こう

8月22日(日)

164

ブナの森の滝巡り

9月19日(日)

165

里山の秋     

10月17日(日)

166

秋のブナ林

11月7日(日)

167

冬の渡り鳥

12月5日(日)

168

初冬の森(ゆう星館前泊)

カタクリの会は西和賀地方(湯田町・沢内村)で、自然観察会開催を目的とした会です。
誰でも自由に参加できますが、各観察会の一ケ月前から電話でのみ受付です。
カタクリの会連絡先:郵便番号  029−5512 和賀郡湯田町廻戸
電話&FAX 0197(82)3601 代表 瀬川強      

 

第1回うつくしま自然展開催のお知らせ

1.主催 :自然誌博物館設立推進協議会

2.開催日時 :8月14日(土)〜15日(日)

3.開催場所 :コラッセ福島3階企画展示室

4.参加団体:福島県植物研究会,福島県自然保護協会,,福島生物同好会,福島虫の会,日本野鳥の会福島会津イトヨ研究会,会津生物同好会,高山の原生林を守る会

5.展示物   :標本(虫・植物)、写真(植物・動物)、植生図、地質図、模型(野鳥)、BGM(鳥)等

高山の原生林を守る会では会のこれまでの多面的な活動の紹介(・観察会,植林活動,登山道整備,緑の回廊,森林生態系保護地域設定,会報,ホームページ,発行本,写真展等),登山道問題,吾妻山のブナと花の写真を展示します。

6.後援団体 :福島県、福島市、マスコミ、福島大学(予定団体)

 

会報50号記念号の原稿を募集します。

 次回は会報も50号を迎えます。50号では8ページ増やして特別企画とします。自然保護に関する原稿(200字〜400字)をお寄せください。

 

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