信夫山・烏ヶ崎の展望デッキ  奥田  

 1月の観察会は福島市内の東側にのっぺりと広がる十万劫山だった。歩いてみたら、市内にこんなにも素晴らしい里山があることが嬉しかった。車道が横断したり、人工物のアンテナが建っていたりしても、里山の良さも同じくらいに残されていたからだ。好ましい雑木林や昔の炭焼きの跡、山頂に祀られた神様、雪に描かれた動物の足跡や北限の木の意外な発見などなど。自然と人の営みが入り組んだ里山の特徴がよく現れていた。

『里山の環境学』(武内和彦ほか編 東京大学出版会)によると、里山とは、「人間の手で管理された自然」、すなわち、かつては薪や炭などの供給源であった「雑木林や採草地を中心とする区域」をいうとさてれいる。その語源は、江戸時代の宝暦9年(1759)に書かれた『木曽山談義』の中に「村里家居近き山をさして、里山と申し候」とあり、森林生態学者の四手井綱英氏が1960年代前半に、「林学でよく用いられる<農用林>を<里山>と呼ぼうと提案した」とされている。

里山はわたしたちの身近な自然環境でもある。里山には里山に特徴的な生き物たちがたくさん暮らしており、またつい最近まで、里山を上手に利用した人々の営みがあった。里山のそのような長い歴史を通して、地域の文化が育てられ、守られてきた場所であった。

  2003年1月18日、信夫山に店を構える某蕎麦屋で開かれた「信夫山を守る会」の集会に呼ばれて顔を出した。高山の原生林を守る会からの3名を含めて10名が集まった。おいしいおでんを頂きながら、話に耳を傾けた。

        烏ヶ崎を散歩していたら工事しているのを発見し、この事実を新聞へ投書した。

        この危機感から信夫山の自然を守る会を結成した。

        市は11月14日に説明会を開催。厳しい意見が市民から出されたが、市は補助事業として1750万円の予算が付き工事は撤回できないとの姿勢。「自然に負担を掛けない手法」で工事すると理解を求めた。

等の経過説明がなされた。

この場では、今回の計画に対しては、やむなしとし、今後は事前に計画説明を市民に対して行うことを申し入れようということになった。結果として計画を縮小して工事は行われたという。

 最初に問題提起した投書では「中高年の登山ブームと云われる昨今ですが、なぜ汗をかいて登るのでしょう。一歩一歩、足を踏みしめ、苦労しながら登るからこそ、頂上での素晴らしい眺めに歓声をあげるのではないでしょうか。烏ヶ崎に登る人は、あの岩のゴソゴソしたところに腰をおろし、ビールで乾杯するのが楽しいのです。傾斜があるから山なのです。これ以上税金を使って自然破壊をしないよう切に望むものです」とあった。

 毎日新聞の論評(ふくしま有情)では「愚者は山を壊す」と題して支局長自らこう述べている。「恐らくあまり現場に足を運んだことのない役人が机上で考えた産物なのだろう。そこには山を歩く人には欠かせない大事な視点が抜け落ちている。すべからく山歩きは、どんな山でも多少の危険が伴う。山道の傾斜や山頂までの距離のみならず、天候にも危険度は左右される。それを自己責任で乗り越えるから、達成感が生れるのである。信夫山でも例外ではない」

 先日、烏ヶ崎に登ってみたが、立派にデッキはできていた。本当に悲しい建造物である。どうみても縮小などしていないし、1700万円もするとは思えない。それはともかく、あの一角は月山・羽黒山・湯殿山や羽山神社の祀られた一種怪しげな場所であった。しかし展望台が作られたことで、その気が感じられない。妙に明るく、山火事で木々が焼けてしまった分を差引いても、明らかに不似合いな施設であると感じた。

 信夫山に昔から住む蕎麦屋のKさんは「信夫山にある黒沼神社の鬱蒼とした何かを感じさせる気配がいい。古い時代からあったものは古いほど価値のあるものだ。今、烏ヶ崎にデッキを建設されることは自分の身体を切り裂かせるような思い」と語たった。またKさんは「そんな現代人の自然に対する本能が失われつつあるのが怖い」とも話していたのが印象的だった。信夫山の烏ヶ崎に展望テラスを建設しようという発想は自然の価値を何ら認識していないことであり、「人と自然のつながり」の感覚の欠如が遠因といえる。単に役人の時代錯誤感覚であるのか、Kさんの云う通り「自然に対する本能」が失われてしまっているとしたら、いったいどんな世の中になるのだろうか。

 

 

烏ヶ崎のカラスの止まり場? 毎日新聞コラム

 

ふくしま有情   愚者は山を壊す

                             2002年11月25日(月)付け毎日新聞コラム

余計な手を加えるとだめになるものがある。最たるものは自然。山に魅入られるのは、あるがままの自然に触れ合えるからだ。土や石の道を踏みしめるからこそ、自然と一体感が保てる。アスファルト舗装されだ道を歩いでもこの感覚は生まれない。

福島市のシンボル、信夫山(275m)の西端に市内を一望できる景勝地「烏ケ崎」(からすがさき)がある。市はここに木製展望デッキを設置しようとしでいる。いる。子どもやお年寄りが弁当を広げられる施設という。すでに工事が始まった。掘削機で岩や土を削り、コンクリートの基礎を打う込んだ。工費1750万円。年内の完成を目指しでいだがヽ市民から反対の声が上がった。

理由は明快だ。「不必要な施設」「環境を破壊する」の2点に集できる。私も散歩がてら烏ケ崎へは数回登っている。なぜこの場所に、この施設が必要なのか。市の意図が理解できないでいる。

反対の輪が広がったため市は工事を中断、13日(水)に「市民説明会」を開催した。週日の午後1時開会、この時間帯に出席できる市民は限られる。50人ほどしか集まらなかっだ。

市公園緑地課の説明は次のようなこどだっだ。@これは安心・安全を確保する施設だA10年前にまどめた信夫山整備計画の「最後の事業」で国から補助金が出たG工事は自然環境に極力配慮、掘削も人力で行う(注・私は現場に小型掘削機が置かれていたのを見ている)C地元町内会や市内の小学校へのアンケート調査で要望があっだ。

出席者から「今後市民から反対の声が強かっだなら、工事は取りやめるのか」と質間が出た。市側は「いったん業者に資材を発注した工事は止められない」と答弁した。爆弾を仕掛けられたバスがスローダウンもストップもできないという筋書きの映画「スビード」のような理屈である。ダム工事を中止したのは何も長野県の特許でない。福島県も過去に行っている。

市の揚げ足を取るつもりはない。デッキが生態系を壊すという論点は専門家が指摘してくれるだろう。私は単に山を愛する立場から、おかしい、と首をかしげている。展望デッキは「安心・安全」の施設ではない。これは断言できる。恐らくあまり現場に足を運んだことのない役人が机上で考えた産物なのだろう。そこには、山を歩く人には欠かせない大事な視点が抜け落ちている。

すべからく山歩きは、どんな山でも多少の危険が伴う。山道の傾斜や山頂までの距離のみならず、天候にも危険度は左右される。それを自己責任で乗り越えるから、達成感が生まれるのである。信山も例外でない。

烏ケ崎へは、近くの月山駐車場までアスファルト道路が通じており、そこから歩いて分。麓から土の山道を自雰の足で登っても30分で着く。どちらも目に飛び込んでくる景色は同じだ。でも充足感が連う。自分の足でつかんだ眺望は何倍もありがたみがある。

その景勝地にコンクートで補強された人工物があれば、どう思うのだろう。ひよつとしたら車を利用した人は何も感じないかもしれない。足で登ってきた人はきっと興ざめする。それだけの違いではないか、と軽んじてはいけない。この落差に敏感になることが、本当の豊かさを知る入り口となる。

弁当を食べる場所は、地べたにシートを広げれぱいい。昔からみんなそうやってきたが、何の不都合も生じなかった。お節介無用、放っておけぱ万事丸く収まる。

毎日新間福島支局長 近藤憲明

 

吾妻連峰植生回復事業の概要と守る会の対応について      高橋 淳一
 近年の百名山ブームによる入山者の増加は各地の名山において登山道の荒廃や水質の悪化を招いています。吾妻連峰においても国立公園特別保護地区、森林生態系保護地域など保全のために様々な制約を課していますが、湿原の裸地化、池塘の消失などに歯止めが掛からない状況となっていました。

このような状況下において、環境省や地元福島、山形県では、平成10年度より西吾妻山周辺や弥兵衛平湿原において木道整備や植生回復事業を実施してきましたが、山域全体の保全対策という点では、予算的な背景もあり満足できる状況には至っていないのが現状でありました。当会としても環境省の許可の下、裸地化拡大防止策とし緊急避難的に西吾妻避難小屋〜西大巓間の登山道において誘導ロープ補修を実施してきましたが、この度、福島県(主管:環境政策室)より平成15年度以降の保全事業(事業名「裏磐梯等自然環境保全事業」)の概要説明並び協力要請がありましたので内容を報告いたします。

これによれば、事業期間を平成15年度から平成17年度の3年間とし@学識者等による植生調査会の組織化と調査研究の実施A植生荒廃の著しい箇所(鎌沼浄土平地区・東大巓周辺地区)における調査並び作業B復元作業における都市部住民等のボランテイアの活用などが事業の柱となっております。そして、この中で山域の中心部に位置する東大巓地区での作業について、当会への協力依頼がありました。これに対し、今年の活動計画にも予定していた地区でもあり、これまでの保全事業からも外れていたことなど考慮し、出来る範囲の協力を回答いたしました。具体的には、7月の現地調査に始まり、8月〜9月に土壌流失防止作業(簡易土工)ということになっておりますが、方法等については、会員の皆様よりの意見・提案を頂きながら慎重に進めてまいります。さらに、作業等につきましは会報にて、周知いたしますので協力の程宜しくお願いいたします。

 

編 集 後 記

■十万劫山頂の歓迎の雪文字には感激しました。書かれた方の連絡をお待ちしています。■4月には「奥羽山脈花紀行」を出版、6月は植林と写真展、7月には東大巓の植生回復ボランテアと行事が続きます。皆さんの積極的なご意見とご協力を御願いします。

 

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