鹿狼山から  
38 〜オトゲナシ    小幡 仁子

今日は8月20日、お盆も過ぎて、夕方になると涼しい浜風が入ってくるようになりました。昨年9月に、近くの田んぼで絶滅危惧種のミズアオイを発見し、今年はどうなっているかと行ってみました。この田んぼは、稲の中にヨシが生えていたりするので、耕作者はあまり手入れをしないで稲を育てていると思われます。田んぼに下りて稲の間を覗いてみました。今までに見たことのない花と葉っぱがありました。何だろうこれは、と思いました。それに、あるはずと思ったミズアオイの葉っぱが見当たりません。昨年9月に咲いていたのだから葉っぱくらいはあるはずだと思いました。それに昨年12月には、ミズアオイの枯れた葉っぱが残っていたのだから、種はこぼれているはずです。どうしてミズアオイはないのだろうと不思議に思いました。
今までに見たことのないと思った植物は、やじり形の特異な葉の形から「オモダカ」だと気が付きました。3枚の白い花びらのかわいい花が咲いていました。このオモダカがあるのでミズアオイが出てこないのかなとも思いました。それにしても、昨年に引き続き珍しい植物を見せてもらいました。
 田んぼのことは実家の父に聞くと色々分かるので早速聞いてみました。「オモダカ」はこのあたりでは「オトゲナシ」と言うようです。父は手に持っていた枯れ枝でオモダカの葉っぱの形を作り、私に教えてくれました。「オトゲナシっていうのは葉っぱが顔の形をしているが、この三角の空いた所に頤(おとがい・あご)がないからオトゲナシって言うんだ」「はあ、そうなのか」嘘か本当か分からないとは思いましたが、なるほど葉っぱの空いている部分に顎を書けば人の顔になるとは思いました。インターネットで調べると、オモダカの別名にオトゲナシがありました。父の話は本当かもしれません。
オトゲナシもミズアオイと同じ水田雑草です。除草剤のなかった時には夏の除草作業は本当に大変だったようです。「夏の暑い盛りに、田んぼに這いつくばるように泥まみれになって、田の草取りをしたもんだ」と父は言っていました。私の記憶の中にも田んぼの中で手押しの草取り機械を動かしている父の姿があります。手押しの草取り機械は泥をはじいたのでしょう。それに父は素足だった気がします。
 オトゲナシもミズアオイも、一緒に田んぼにあったと父は言っていました。それが昭和30年代に除草剤が出てきてからは、水田雑草は消えてなくなり、夏の辛い農作業が格段に楽になったそうです。父は、私の家の近くにある田んぼはオトゲナシやらミズアオイや出てくるのだから、除草剤や農薬などをあまり使わない農法で米を作っているんだろうと言いました。出荷などしないで自家用米だけを作っているのかもしれません。そういえば数年前に、私の好きな花サクラタデを見つけたのもこの田んぼの畦道だった気がしました。  (2016/08/24 記)         

  
稲の中にヨシが生えている田んぼ  オトゲナシの花  葉っぱは人の顔のようだ