鹿狼山から  
37〜ウミミドリ    小幡 仁子

 今年4月10日(日)に行われた高山の原生林を守る会「第145自然観察会」では塩手山のスプリングエフェメラルを見たり、新地町沿岸部の大防波堤工事を見学したりしました。その時に会員の伊賀さんに案内されて、ウミミドリも観察しました。私はそれまでにウミミドリという植物の存在を全く知りませんでした。サクラソウ科で沿岸部の塩性湿地になどに生育し、県のレッドデータブックでは、絶滅危惧T類に指定されています。県内では松川浦と新地町の2カ所で確認されていましたが、海岸整備でなどで震災前には消滅したそうです。再びここに植生するのは、津波によって種子が流されてきたか、真水と塩水が混じった汽水環境ができて、地下で眠っていた種子が発芽したことなどが考えられると書いてありました(福島民報)。

初めて見た時は、ベンケイソウやマンネングサの仲間のようだと感じました。ぺたっとカーペットのように地面に張り付き、きれいな緑色をしていました。ピンク色の花が咲くというので見に来ようと思いました。私は新地町に住んでいるので、4月30日にまたここを訪れました。そうしたら、ウミミドリのあった場所にショベルカーが見えたので驚きました。写真で分かると思いますが、ショベルカーの向こう側、緑色をした部分がウミミドリです。ショベルカーは丁度ウミミドリの前で止まってバックしたようでした。ウミミドリの価値が分かってここを通るのを止めたようにも思えました。20日間で大部成長し5cm位になっていましたが、花芽らしきものもなく、咲くのは大分後だと思って帰りました。

 町の復興計画では、防波堤を整備し、防波堤と常磐線の間に土地を嵩上げして道路を作る予定です。震災の大津波で、新地町では防波堤も常磐線も常磐線新地駅も粉々になってしまいました。今度津波が来たら防波堤と嵩上げした道路で減災し町や住民を守る計画になっています。だから、丁度ここはその道路ができる部分かもしれません。工事の様子を見ると、防波堤はずいぶんできてきました。常磐線は今年12月に相馬〜仙台まで開通するようです。常磐線と防波堤の間にできる道路の工事も進むことでしょう。この生育地がこのまま無事に残るかどうかは不明です。

 さて、私はウミミドリの花を見ようとは思ったのですが、土日毎に好きな山登りに没頭し、平日は仕事が忙しく、ついウミミドリの事を忘れてしまいました。それで、ウミミドリの花は写真に納めることはできませんでした。でも、5月19日付けの福島民報新聞には花の写真と記事がありましたから、それを見た方も多いことでしょう。

 私は6月12日にウミミドリの生育場所に行きました。すでに花は終わり、果実がびっしり付いていました。花という花が全部結実したのではないかと思うほどびっしりと果実は付いていました。私はそれを見て、ウミミドリという植物の生命力を感じました。

潮の香りがしました。ウミミドリの育つ場所で水を嘗めてみたら、なるほど塩辛い味がしました。このような場所で生育できる植物は限られていることでしょう。でも、そのような場所が与えられれば、美しく力強く咲くに違いありません。できればこのままここに咲いていてほしいものです(2016/06/18 記)。         

   
ウミミドリ(4月10日)  ウミミドリ(4月30日)  ウミミドリの生育地(4月30日)  ウミミドリの果実(6月12日)
   
   ウミミドリの群生(6月12日)