鹿狼山から  
35 〜ミズアオイ〜    小幡 仁子

 皆さんはミズアオイという植物をご存じでしょうか。私は今年9月にこの植物の存在を初めて知りました。自宅近くの田んぼに、何やら青い花が咲いているのが分かりました。通勤途中の車の中で気が付いたのです。どうして田んぼの稲の間にこんな青い花が咲いているのだろうと思い、車を降りて行って見ました。今までに見たことのない青紫色の美しい花でした。早速写真を撮り、手持ちの図鑑を調べると「ミズアオイ」という名前であることが分かりました。また、ネットで検索したら以下のようなことが分かりました。花の形状もよく説明されていたので、その文章を紹介しておきます。
 「ミズアオイ(ミズアオイ科ミズアオイ属)は北海道から九州・朝鮮・ウスリーに分布する1年草。古名をナギといい、葉を食べたという。昔は水田や沼地、池、河川の下流域などに広く生育していたのであろう。現在は除草剤や基盤整備、河川の性質の変化などによって激減しており、環境省RDBでは絶滅危惧U類に、岡山県RDBでは絶滅危惧種に指定されている。草丈は20〜50cmで柔らかい。葉は5〜25cmの葉柄があり、根生葉のものは長い。葉の形は心形でつやがある。9月から10月にかけ、茎を伸ばして先端に花序を形成する。花は青紫色で美しく、直系2.5〜3cmで一日花。花被片は6枚で、内花被片は外花被片に比べて幅が広い。雄しべは6本で、その内5本の葯は黄色。残りの1本は下側に垂れて紫色。雌しべは1本で下側に曲がり、紫色の雄しべと反対側の位置にある。 1年草の種子は、少なくとも一部は簡単には発芽せず、土の中で埋土集団(シードバンク)を形成することが多い。ミズアオイもそのような性質があり、いったんは姿が見えなくなっても、生育していた場所の土壌を耕したりすると再生することが知られている。沼地のような立地は変化が激しく、ヨシのような背丈の高い植物が繁茂するとミズアオイのような背丈の低い1年草は生育が困難になる。いつしか生育が可能な場所ができることを願って土の中にはたくさんの種子が待機しているに違いない・・・・」
 私は、ここに住んで20年近くになります。ずっと同じ道路を通って通勤していたし、このように遠くからでも目に付く青い花に気が付かないはずはありません。この田んぼにミズアオイが咲いたのは今年が初めての事だと思います。というより、ここ20年以上は生育環境に巡り会えずに、土の中で埋土集団(シードバンク)として待機していたということでしょう。
さて、この田んぼに何があったのだろうと考えました。道路脇のこの田んぼは、ずっと田んぼであった気がします。沼地でも湿地でもありませんでした。毎年同じように耕されて今日に至っているような気がしました。今年は田んぼの持ち主が田植えの前に念入りに耕したのかもしれません。想像は色々に広がります。それにしても、ミズアオイが再生した本当の理由を知りたいものだと思いました。
戦前は田んぼや沼地に普通に見かけたというので、実家の両親なら知っているかもしれないと思い、写真を見せました。するとすぐに「こいつはコナギだ。いや〜これにはオレはひどい目にあった〜、なんぼ苦しめらっちゃかわがんねえ」との話。ミズアオイは田んぼに繁茂する雑草として嫌われていたのです。父の話では、油断しているとあっという間に田んぼに広がって、退治するのが大変だったということでした。それでも、昭和30年頃に24Dという除草剤が出て、この除草剤がコナギにはうんと効いて、1000倍に薄めて噴霧器でかけると、翌日には黄色くなってとろけてなくなった、それからはだんだんなくなって見なくなってきた、とも話していました。
開拓農民の2代目だった父は、この海岸近くの塩分のある土地を開拓してきました。始めの頃は塩分があるせいかコナギは生えなかったと言っていました。塩分がなくなり、米が取れるようになってから、コナギが出て来るようになったようです。9人兄弟の長男であった父は、少しでも多くの米が収穫できるように懸命に働いてきました。コナギは大敵であったことでしょう。それでも父は、「鉢にでも入れて庭に置きたいような青い美しい花だった」とは言っていました。
ミズアオイは田んぼの端っこ5メートル四方位に咲いていました。取り入れの秋にその部分は刈り取りをされないまま残りました。この田んぼでは春には普通に苗が植えられ、稲が育っていました。9月にミズアオイの花が咲くまで成長を続けたのですから、田んぼの持ち主はミズアオイが出て来ることを知らずに田植えをし、ミズアオイが出てきてからは、除草剤をかけることもなく、故意に抜き取らずに残しておいたのではないか思います。今も、枯れた稲の間にミズアオイの枯れた葉が残っています。 これからミズアオイはどうなるのでしょうか。田んぼの雑草ではなく、来年もここで花を咲かせるのでしょうか。来年春になったら田んぼの持ち主に会って(うまく会えるといいが・・)このミズアオイをどのようにしていくのかを聞きたいものです(2015/12/19 記)。  

     

田んぼの稲の中で咲くミズアオイ

 青紫色のとても美しい花  ミズアオイが咲いていた部分は刈り取られないで残った  ミズアオイは来年も咲くのだろうか