鹿狼山から  
34 〜アフリカツルスミレ〜    小幡 仁子

スミレの花が好きである。きっかけはやはり「高山の原生林を守る会」の観察会で、スミレには沢山の種類があり、それぞれに表情が違うことが分かったからだと思う。それまでは、スミレの存在は知っていたが、ひとまとめに「スミレ」でしかなかった。まず、ルーペを通してみる唇弁の美しい模様に驚いた。ひらひらと波打つ側弁、緩やかなカーブを描いて背筋を伸ばす上弁、スミレは作りそのものが美しく愛らしい。小さな芸術作品のようだ。見れば見るほど、神様はどうしてこのように美しい形や色をスミレに与えたのかと自然の不思議を感じる。

 私の故郷の山である鹿狼山にも10種類を超えるスミレがある。3月末のアオイスミレの花に始まって、5月のニョイスミレの花で終わるまで、スミレの花の季節は続く。鹿狼山に「スミレの女王様」と言われるサクラスミレを見つけたときは嬉しかった。スミレは花が終わった後も閉鎖花を付けていたり、葉っぱだけは大きく成長を続けたりしているから、かなり長い間地面から消えないでいる。そんなことに気が付いたのもずっと後になってからである。

  一昨年の6月末に秋田駒ヶ岳にタカネスミレを見に行った。高山の火山砂礫地にしっかり根を下ろし、コマクサと共に大群落をなしていた。そして、砂礫地でない黒土のところにはキバナノコマノツメが咲いていた。一緒に咲いているような場所もあったが、大方は棲み分けができていた。高嶺の花に出会う度、花が自分の適地を知って咲くことにも感動を覚える。
 キバナノコマノツメと言えば、オーストリアのダッハシュタイン山脈を歩いたときも岩陰に楚々として咲いていた。どうしてこんなに遠く離れた地に同じ花が咲いているのかと感動したものだ。また、昨年ピレネー山脈を歩いたときも、このキバナノコマノツメに出会うことができた。本([日本のスミレ]・いがりまさし)を読んだら「キバナノコマノツメは北極を中心に地球にグルリと鉢巻きをしたような地域に分布する。日本では北海道から屋久島まで分布し、一定の標高および緯度以上のところに普通に見られる」とあった。そうか、どんなに遠くても地球の鉢巻きの上だったんだ、と合点した。

  アルプス山脈を歩いたときも今まで見たことのない紫色の大きいスミレに出会った。内田一也さんの「スイスアルプス花図鑑」でビオラ・ケニシアViola cenisiaとビオラ・カルカラタViola calcalataと分かった。名前は各国にそれぞれあるし、ドイツ語もフランス語も分からない私は、覚えるなら学名のラテン語で覚えた方が覚えやすいことも分かった。ラテン語はローマ字読みに近いので、私でも何とか発音でき、言葉になりそうである。しかし、図鑑というのはありがたいものだ。
ピレネー山脈でも素敵な水色のスミレに出会った。これはビオラ・コルヌタViora cornutaと分かった。麓の街の本屋に「ピレネー花ガイド」という本があったのである。スペイン語の本で説明書きは読んでも分からないが、花の写真があり、ラテン語の学名も書いてあったので、これで名前が分かった。

 さて、下の写真は今年、アフリカに行ったときに熱帯雨林のジャングル中で見たスミレである。まず、スミレの花がまるっきり1本のツルの所々から出ていることに驚いた。花の感じはアカネスミレに似ていて上弁・側弁・唇弁や距もそろい、葉っぱは心形であった。1本のツルから、おおよそ等間隔に、花1つ葉1枚がセットになって直上していた。地面を四方八方に長く這い、草の上もお構いなしに這っていた。花と葉がセットになっている部分の下方には小さな突起が付いていたから、ここから根を出すものと思われた。ミヤマツボスミレなども茎が地表を這い、途中から根を出すらしいが、私はまだ確認していない。
「ふ〜ん、さすがアフリカだ」と、他にも珍しい花や樹木がいっぱいあって、感動の連続だった。街に出たら植物図鑑を買って、このスミレが何という名前なのかを調べようと思った。しかし、動物図鑑はあったが植物図鑑はなかった。ネットでも検索してみたがまだ不明である。自分の中で当面はアフリカツルスミレと名付けておこうと思う。(2015/08/30記)  

アフリカ・タンザニアの熱帯雨林の中で咲いていたスミレ