第165回自然観察会:講演会と新地町埒浜防災緑地観察会

19.9.8()

165回自然観察会:講演会と新地町埒浜防災緑地観察会  伊賀和子

9月8日、久しぶりに皆様とご一緒させていただきました。今年は雨降りが多く、また、晴れれば猛暑。降っても晴れても、9月の海辺の観察会はきびしいだろうなと思っておりましたが、当日は抜けるような青空。しかも台風15号が数百キロメートル先まで近づいていたせいで、意外にも涼しい海風が吹きつけていました。
午前中は福島大学共生システム理工学類教授である黒沢高秀氏から、午後に予定されている観察地の震災前と後の地形の変化、それにつれて変化のあった植生について講義がありました。午後は、講義での知識を踏まえた観察会。震災後の復興工事として進められた新地町埒浜防災緑地公園と、松川浦県立自然公園に新たに設置された自然保護区域、保全区域が対象地でした。
埒浜は植物もまだ外来種が旺盛でしたが、そんな中、歩き始めて間もなくミズアオイが数株青い花を咲かせており、歓声があがりました。午前中に受けた講座の中でのミズアオイの花の構造をすぐに確認できてラッキーでした。帰りがけに通った公園の法面が、一面マツバギクでおおわれているのが見えました。松川浦ではまず保存地区の位置と範囲を確認。そこに生育する絶滅危惧のシバナ、オオシバナ、ハマサジ、ハママツナ、アキノミチヤナギなどを見ることが出来ました。この地点には昨年までオオシバナ4株の生育がありましたが、今年になって新たにシバナが数株芽生え、花も咲かせていたことが確認されました。
狭いながらも天然の植生が形になってゆきそうで、希望の象徴のような塩性湿地です。保全地区は県と国の面積を合わせるとかなり広大でうれしくなります。こちらでは潮の満ち干による水位の変化がもたらす植生も期待できる設計とのことです。
大津波は8年経った今も瞑目せずにはいられない多くの悲劇をもたらしました。しかし、自然の息吹は人間が作り替えてきた地形を一日にして覆し、そこにかつて生きていた植物たちの息吹までも取り戻したのです。季節がすすむにつれ、干拓される以前の植相が展開される光景に何度、目を瞠ったことでしょう。緑の絨毯を敷き詰めたようなアズマツメクサの群落、県では絶滅したのではないかと思われていた数十年ぶりのウミミドリの大群生。蘇ったそれらの群落の多くは惜しくも復興工事の名のもとに、再び地下に埋め戻されました。せめて、手を加えないと約束をしたこの区域で、百年、二百年と天然の植生が歴史を重ねていくことを願っています。
 震災後の復旧、復興工事を進めるにあたり保存地区、保全地区を残してくれるよう多大なご尽力をくださった黒沢先生はじめ関係各位に御礼申し上げます。(相馬市在住 伊賀和子)

黒沢高秀教授の講演(震災による浜辺の地形と植生の変化について)

埒浜防災緑地の植生を観察

 

 

ウミミドリ(新地町2016.5.18 

アズマツメクサ(新地町2016.6.12

ハママツナ(和田2012.10.22)

 シバナ(松川浦2016.10.11)

オオシバナ(松川浦2017.5.20 湿性緑地ではミズアオイが再生 震災の痕跡を残す松川浦保全地区の植生を観察
   
 驚かせてしまいました  干潟の再生工事跡を観察  松川浦と鹿狼山

ハマサジ群落