奥羽山脈花回廊(8)大作山

                                                                  丸山 旭

 (山の概要)

  福島盆地の北西部、山形県との県境付近には、標高1216mの栗子山を中心とする標高1000m前後の山塊が広がっている。大作山はこの山塊の東端に位置する標高567.7mの山で、福島の市街地方面から眺めると半円形の特徴的な山体が目立つ。山のすぐ東には摺上川が渓谷を刻んでおり、渓谷沿いには穴原温泉、天王寺温泉がある。

 山はクリ、コナラなどを中心とする自然林や植栽されたアカマツ林で覆われている。かつては登山道もなかったが、今では大作山生活環境保全林に指定され、遊歩道も整備されている。

 麓には宝燈国師の開山と伝えられる古刹天王寺があり、大作山に続く裏山で国の重要文化財にも指定された12世頃の経筒が発掘されたり、また、山頂には飯坂の地名の元となった初代飯坂氏が曾祖父である伊達為家の供養のために建立したとされる五輪塔が発見されるなど、人との関わりの歴史も深い山である。

(コースガイド)

 福島市内から国道399号を飯坂町茂庭方面に進み、天王寺温泉の手前にある毘沙門のバス停から分かれる市道を300mも入ると天王寺がある。一車線分しかない道を天王寺の裏手に廻り込みながら山に入っていくと女沼があり、大作山が水面にその影を映している。以前は岸辺に草木の茂る静かな山中の沼であったが、今では沼の周囲は護岸工事が行われるとともに手すりや歩道が設けられてすっかり人工的な池に変わってしまい、かつての野性味は失われてしまった。沼の周囲には桃畑が広がっており、4月から5月頃の花の時期は見事な眺めである。

 さらに車道を進むと広い駐車場が整備されており、この少し先が東登山口である。車道が大作山を一周しており、登山口は三カ所あり、どこから登っても1時間もあれば登ることができる。ここでは、東登山口から登り、北登山口に下りるコースを紹介する。

 東登山口からは雑木林の中に続く整備された道を進む。春にはイカリソウ、タチツボスミレ、キブシ、マンサク、夏にはオカトラノオ、キンミズヒキが咲く道である。あまり刈り払いが行われていないことが幸いして、足元の植物は豊富だ。やがて大きな谷状の地形に入り、ミズナラやクリを中心とした背の高い雑木林となってくると分岐が現れる。

 分岐で右に南東の尾根を登るコースを分けてさらに進むと石の階段が続くようになる。歩道周辺では春にはエイザンスミレ、スミレサイシン、フタリシズカ、マムシグサ、夏にはヤマジノホトトギス、ソバナ、オヤリハグマなどが見られる。

 階段状の道を登り詰めると再び分岐がある。左は福島盆地が一望できる展望広場を経て北登山口からの車道に出るコースである。展望広場付近には初夏にはウツボグサ、イチヤクソウ、ヒメサユリなどが見られるので往復してみるのも良い。分岐を右にとると、道は雑木林の急な斜面を大きく巻いて登る。春であれば足元にミヤマナルコユリ、フデリンドウ、センボンヤリなどが咲く。伐採された明るい斜面に出ると山頂はもうすぐである。伐採跡では道の両側にヤマハギ、ツクシハギが多く見られる。

 山頂には東屋と芝が貼った広場がある。春にはスミレ、夏には一面ハナニガナが咲き、晩夏から初秋にかけてにはセンブリやネジバナがたくさん花を咲かせる。また、ノアザミ、トリアシショウマも見られる。ただ、この地域には本来自生しないはずのシラカバやヒマヤラシーダーなどが植栽されており山全体の自然の中では違和感がある。

 山頂広場からは登ってきた南コースの他、南東コース、北東コース、北コース、北コース登山口や展望広場のコースに繋がる林道の各コースが分かれている。山頂広場を外れ、北東コースや北コース周辺の自然林を散策してみると、夏から秋にかけてオケラ、オクモミジハグマ、オヤリハグマ、バイケイソウ、センダイトウヒレン、オオバギボウシ、ホツツジ、ヒメアオキ、ツルアリドオシなどが見られる。

 さて、下りは山頂からは北コースにルートを取る。このコースは大作山の北西面をたどるが、ミズナラ、コナラ、クリの雑木林からアカマツ林へと林の様相は変化に富む。これに合わせるように背の高い雑木林ではオヤリハグマやオクモミジハグマが比較的多く、アカマツの疎林などの日当たりの比較的良いところでは、オケラやリンドウ、ヤマハギ、ノコンギクが多い。南西方向に吾妻連峰が望まれるようになると間もなく北登山口の車道に出る。登山口の周辺ではキバナアキギリ、ヒキオコシ、カメバヒキオコシが見られる。

 これより南東登山口の広場までは車道をたどるか、山頂へ続く車道を登り返して展望広場経由で戻ることになる。

(アクセス・コースタイムアドバイス)

 JR福島駅から福島交通の茂庭行きのバスで毘沙門で下車。バス停から西方へ5分ほどの天王寺を経由して林道を入り、南東登山口付近の広場まで約3km。広場は50台は駐車可能であり駐車スペースの心配はない。林道が山を一周しており、この広場を起点に各コースを歩くと良い。どのコースも登山口から1時間弱で山頂に至る。

※アプローチの林道は摺上川ダム関連工事の大型ダンプが頻繁に走行しており、通行には注意が必要である。

 


ソバナ

イチヤクソウ

ヤマジノホトトギス

センブリ

オヤリハグマ イカリソウ オケラ ツクシハギ

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