奥羽山脈花回廊(16)小白森山

                                     丸山 

(山の概要)

  小白森は那須連峰の北側に連なる山々の一峰で、北隣の二岐山同様古い火山である。峰続きの南隣にあり標高で100m程高い大白森と、知名度が高くかつ目立つ山容の二岐山に挟まれて、あまり注目されることもなく訪れる人も少ない地味な山である。しかしその分静かな山歩きが楽しめる。

 大白森とともに山名に「森」を冠し、もともとは全山深いブナ林に覆われていただろうと思われるが、現在では残念ながら山体の東側は痛々しいほどに皆伐されている。幸いにして西側の二岐川源流部一帯はまだブナやアスナロの深い森が残されており、こちらの方は伐採せずに是非ともこのまま残してもらいたいものである。

 この小白森や二岐山にかけてのブナ林は、同じブナ林でも北の吾妻連峰付近とは若干様相は異なり、ブナ林の中に常緑樹のヤマグルマがあることや、アスナロの混交が多いのが特徴である。

(コースガイド)

 小白森への登山道は、北の二岐温泉から入るものと南の甲子峠からのものと二つあり、登山口までのアプローチの交通手段を確保できれば縦走も可能である。ここでは二岐温泉から入り、甲子峠へ南下する縦走コースを紹介する。

 登山口となる二岐温泉は、天栄村湯本を通る国道118号から南へ車で10分ほど入った所にある。小白森の登山道入口は、旅館街を過ぎ二岐川を渡ってすぐ、温泉街の川向かいにある。ここには4〜5台の駐車スペースがあり、登山口の標識もある。

 登りはじめはスギの人工林で、程なくカラマツ人工林に変わる。林内は雑然としているが、5月頃にはマムシグサを見ることができる。またヒメアオキが多く、同じ頃地味な花を付ける。またコバノフユイチゴもあり、7月頃には花も見られる。

 徐々に道の傾斜が増してくると間もなく尾根に取り付く。途中、林相がカラマツから広葉樹林に変わったあたりでは、道沿いの斜面に春にはタチツボスミレが咲く。電光型に登って尾根筋に出てからはヤブレガサの多い緩やかな道を進む。登山口から約1時間の登りで、痩せ尾根が200mほど続く蟻の戸渡に着く。ここは特に稜線の西側が大きく崩壊して足元から切れ落ちており、足場に注意しながら通過する。

  蟻の戸渡を過ぎ一登りすると、以前に伐採された跡地を行くようになる。春には密生する中低木の一員であるオオカメノキ、タムシバ、キブシが花を付け、楽しませてくれる。さらに登って、ふたたび尾根が明瞭になってくるあたりから、尾根筋を境に西側がブナ林、東側が皆伐跡地とはっきり分かれるようになる。道は主に西側をところどころ巻くように登って行く。ブナ林では、春にはショウジョウバカマやヒメイチゲ、夏にはゴゼンタチバナ、オノエラン、ヤグルマソウ、ミヤマカラマツなどが、晩夏から初秋にかけてはクルマバハグマ、テンニンソウ、トリアシショウマ、カニコウモリ、オクモミジハグマが出迎えてくれる。また、ブナ林の中に樹高3mほどのヤマグルマが点在し、この地域のブナ林独特の景観を見せている。

 やがて周りの木々の背丈が低くなってくると山頂は近い。振り返ると二岐山の端正なピラミッドが大きい。蟻の戸渡から1時間ほどの登りで小白森山頂に着く。山頂付近は、初夏にはゴゼンタチバナ、ギンリョウソウ、ヤマグルマ、ハクサンシャクナゲ、コメツツジが、盛夏から初秋にかけてはエゾオヤマリンドウ、ツルリンドウ、クルマバハグマ、アキノキリンソウ、ホツツジが咲く。山頂自体は潅木に遮られて展望はあまり良くないが、縦走路の北側、南側ともに山頂の少し手前では展望が良い。

 山頂より大白森方面に進むと那須連峰の展望が大きく開ける。旭岳の山容が一際目を引くが、山頂の西の肩にある電波反射板が極めて目障りだ。旭岳の景観が素晴らしいだけに残念である。道はすぐに潅木帯を抜けてブナ林に入る。これより大白森までブナ林の小さなアップダウンが続く。この間の道沿いはオクモミジハグマ、カニコウモリなどブナ林に典型的な植性となっている。

 小白森からおよそ1時間の行程で大白森に着く。大白森の山頂は縦走路から東に少し入った所にあり、背の低い潅木体なので展望はよい。大白森からは沢状の急斜面を下りブナ林に入る。道の両側にリョウブが多くなってくると伐採後に成長途中の二次林で、間もなく甲子峠に到着する。

(アクセス・コースタイムアドバイス)

二岐温泉口

 二岐温泉まではJR須賀川駅からのバスはあるものの便数が少なくマイカーが便利。ただし、現在温泉街の対岸で林道が崩壊していて車両が通れないため、マイカーの場合は天栄村野仲の集落のやや下郷町よりから入る林道を辿らなければならない。

登山口(70分)蟻の戸渡(70分)山頂

甲子峠口

 バスの便はないのでマイカーやタクシーに頼ることになる。二岐温泉登山口は、甲子峠までは下郷町側は車で入れるが、西郷村側は悪路の上、途中崩壊しているので車両の通過は不可能となっている。

登山口(30分)大白森分岐(70分)山頂

ギンリョウソウ ゴゼンタチバナ カニコウモリ
コメツツジ ショウジョウバカマ オクモミジハグマ

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