奥羽山脈花回廊(10) 鬼面山

                                        山内 幹夫   

福島市郊外から安達太良連峰を眺めると、箕輪山の右手に低く突き出た山が鬼面山である。標高は1482mと低く、野地温泉登山口から安達太良縦走登山をする人々には最初に通過するピークであるが、これほど花が豊かで、比較的身近に楽しめる山も少ない。

 鬼面山を満喫するには、国道115号線から、土湯峠方面に分岐する旧道に車を乗り入れた所から風景を堪能し始めるのがベストである。唐松林を抜けると、並木の間に鬼面山が見えてくる。紅葉の季節には、赤い実がたわわのナナカマド街道に白いダケカンバの幹が映える山の姿が印象的である。やがて、ダケカンバが混じる箕輪山北東麓のブナ林に沿って走るようになり、その豊饒さに季節を問わず感動する。積雪期から新緑をへて、紅葉の季節まで、ブナの美しさが肌で感じられる道である。左手にそそり立つ断崖絶壁を眺めながら折れ曲がった道を過ぎると、野地温泉に辿り着く。

ホテルに断って広い駐車場に車を止め、登山口からコースを登り始めると、すぐにブナ林の中を歩くことになる。足元を良く見ると、マイヅルソウが生い茂り、ツマトリソウやツルリンドウも咲いている。枯葉の間からはギンリョウソウも顔を出している。林にはオオカメノキやタムシバなどの白い花も見られる。しばらくはブナの樹々と戯れ、新緑の季節などはその瑞々しさを味わいながら登ってゆく。

林を抜けると左手にピラミダルな山の姿を眺めながら、旧土湯峠に向けて掘切道を歩くが、その土手には薄紅色のイワナシの花が可憐に咲いている。やがてイワカガミが群れ咲くようになると、右手にガクウラジロヨウラクやマルバシモツケ・ミネヤナギ等の木々が並び、笹原が広がる登山道分岐の十字路に着く。高圧電線の鉄塔が目障りではあるが、そこはすでにお花畑のただ中であることが初夏の季節からは感じられるだろう。道沿いにはそれぞれの季節にイワカガミ・ミツバオウレン・クロミノウグイスカグラ・ツマトリソウ・ゴゼンタチバナ・トモエシオガマ・ウツボグサ・ノアザミ・シラタマノキ・アカモノ・ツルシキミ・マルバシモツケなどが観察され、5月中旬にはミネザクラ、ツツジの季節にはガクウラジロヨウラク・サラサドウダン・コヨウラクツツジ、そして梅雨空に映えるレンゲツツジが素晴らしい。十字路を左に折れて山に向かうコースには、7月になるとハクサンフウロが鮮やかに群れ咲いている。ゆっくりと時間をかけて歩くと、いよいよガレた九十九折りの登山道を登り始めることになる。

登り道にはコメツツジやホツツジ・ミネヤナギなどの低木が多く茂り、ここは息が切れない程度にゆっくり登る価値がある。ミヤマシャジンの青い花やミヤマハンショウヅル、朝露煌めくウスユキソウが迎えてくれるからだ。清楚な姿に見入りしばし佇める場所でもある。気が付くとナンゴクミネカエデの花も咲いている。坂を登りつめると、一旦傾斜のなだらかな道となる。崖際の左手に吾妻連峰が広く望める見晴らし台があり、ここは、転落に注意したい。その道沿いには季節によってオオカメノキやナナカマド・ムラサキヤシオツツジ・サラサドウダン・ベニサラサドウダン・ホツツジ・コヨウラクツツジ・オオバスノキ・ナンゴクミネカエデ・コケモモ・ツルシキミ・イワオトギリ・ウメバチソウなどの花が見られ、5月中旬頃には美しいミヤマスミレが並んで咲いている。やがて、枝振りの良いキタゴヨウマツが見られる所には、リョウブも独特の樹肌で繁っている。花期にそこを通れば、白い花が可憐に咲いているだろう。

なだらかな道から、いよいよ最後の登りとなる。頂上に立つと、標柱や記念の石積みなどがあり、周囲には這うような枝振りのキタゴヨウマツやツツジ、フデリンドウ・ガンコウラン・コケモモ・イワカガミなどが目に入る。乾いた喉を潤し、憩いながら箕輪山方面に足を向けると、5月上旬であれば岩場の間にミネズオウの白く小さな花を見つけることができるだろう。

鬼面山は、5月上旬から8月にかけて幾度となく訪ねることによって、折々の花を楽しむことができる。時によっては頂上まで行かなくても、充実感を味わうことができる。

ハクサンフウロ

イワナシ

クロミノウグイスカグラ

ミネズオウ

ミツバオウレン

ミヤマハンショウヅル

ミヤマスミレ

ミヤマシャジン

レンゲツツジ

サラサドウダン

トモエシオガマ

ウスユキソウ

花マップ鬼面山

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