奥羽山脈花回廊(2)額取山(安積山)

                                        佐藤   

コース:御霊櫃峠〜黒岩山〜大将旗山〜額取山(安積山)

額取山は八幡太郎義家の元服に由来する山名であるが、福島県には2箇所ある。今回、紹介するのは郡山市・御霊櫃峠を起点とする猪苗代湖東側の尾根上の北端に位置する別名安積山と呼ばれる標高1008.7mの峰である。過去に伐採されたブナ林の2次林が形成されつつあるこの一帯は、猪苗代湖の影響で、日本海側からの季節風の直撃を受ける地形から特異な林相が認められる。また微妙な地形や環境の変化に応じて植生が多様化しているため、春から秋まで150種を越える花が楽しめる。

  アンテナ施設のある御霊櫃峠は額取山と三森峠にいたるハイキングコースの起点となっている。額取山コース入口でまず驚かされるのは巾3mにも達しようかと思われる砂利敷道である。この砂利敷道路はケルンの積まれた裸地化した小ピークで終点となる。ここからの下りから初めて登山道の様相となる。風の神と雨の神を祀る祠がある辺りから、鞍部にかけての草原ではリョウブ、ミネヤナギ、ツツジ類、アカマツなどの潅木の根元をを縫うようにニオイタチツボスミレ、アケボノスミレ、キジムシロ、アズマギク、フデリンドウ、キリンソウ、クルマバナ、カワラナデシコ、フクシマシャジン、ウスユキソウ、ハクサンタイゲキ、マツムシソウ、オミナエシ、ヤマハハコ、アマニュウ、イブキゼリ、ウツボグサ、コバギボウシ、オクトリカブト、ウメバチソウ等の花が季節の変化に応じて咲きそろう。わい性化したシデ類の潅木帯の小ピークを経て急な下りとなる。この辺りは、リョウブ、ナナカマド、ミズナラ、ミツバアケビ等に囲まれた樹林帯でヤマホタルブクロ、シラヤマギク、ヤマジノホトトギス、ハナヒリノキ、ハナニガナ、ノアザミ、キンミズヒキ、ヌスビトハギ、ホツツジなどの花が見られる。鞍部を過ぎると黒岩山への登りとなる。シナノキ、アズキナシ、マンサク、ミズナラ、ブナ、トウゴクミツバツツジ、サラサドウダン、サワシバ等が岩を包むように根付いている。樹木の生え際ではアケボノスミレが見られる。黒岩の由来と思われる大岩上にはイワキンバイが群生する。コメツツジに被われた黒岩山頂を過ぎると、登山道はわい性化したブナ林の回廊となる。トトロの世界を連想させる樹木のトンネルが心地よい。このブナ林では、ヒメイチゲ、カタクリ、バイカツツジ、ホツツジ、ムシカリ、トウゴクミツバツツジ、ウメガサソウ、ツルリンドウ、マルバイチヤクソウ、ツルアリドオシ、コウグイスカグラ、マイヅルソウ、セリバオウレン等の花が楽しめる。ブナの回廊を抜けると一気に視界が明るくなり、大将旗山山頂まで続く草原が広がる。この草原ではガマズミ、シシウド、ノハナショウブ、オオバギボウシ、ヒメヤブラン、ヤマツツジ、オクトリカブト、ナギナタコウジュ、シオガマギク、キクアザミ、ウメバチソウ、ホタルブクロ、センブリ等の群落が特徴的である。大将旗山頂上直下のガレ場ではアズマギク、センボンヤリ、イワキンバイ、マツムシソウ、ミヤマイボタ、カマツカ、オトコエシ等が見られる。

 大将旗山からはやや痩せ尾根が混じるが平坦な登山道が続く。大将旗山降り口付近ではネコヤナギの雄株、雌株が隣りあって植生し、花の相違が良く観察できる。992m独標までは、ムラサキヤシオ、ウラジロヨウラク、コヨウラクツツジ、ヤマツツジ、サラサドウダン等のツツジ類やノリウツギ、ハイイヌツゲが優占するマント植生が発達している。また途中にコバノトネリコが優占する林が形成されており、その林床下ではコキンバイの大群落が形成されている。コチャルメルソウが見られるのもこの辺りである。環境と樹種、草種との関係を考察するのも面白い。この辺りの登山道沿いではアカモノ、オオバスノキ、タニウツギ、ヤブデマリ、イヌコリヤナギ等に加え、珍しいカラスシキミも観察できる。992m独標辺りからはピンクがかった薄紫のアズマギクの群落が暫く続く中、清楚な紫色のスミレ、アカネスミレ、青紫のフデリンドウ、赤紫のヒメハギが小さいながらも目を引く。またササ原中にクガイソウ、ヤグルマソウ、カワラナデシコ、ヤマユリ、オカトラノオ、オヤマボクチ、ミヤマニガイチゴなどのお花畑が広がる。1006m独標からオオイタヤメイゲツが優占する林中を下る。このカエデ林では、エゾエンゴサクの大群落が形成され、花の季節には石鹸臭があたりを漂う。外にタニギキョウ、クルマバソウ、キクザキイチリンソウ、アカソ、トチバニンジン、チヂミザサ、タガネソウ等が植生する。水場分岐付近では、カタクリ、キクザキイチリンソウ、ラショウモンカズラ、クガイソウ、マルバダケブキ、ウバユリ、シシウド、イブキゼリ等がまとまって植生する。水場分岐を経ると最後の額取山山頂へのガレ場の急登となる。クサボタン、テリハノイバラ、ツチグリはこのコース中、このガレ場から山頂にかけてしか見られない花である。他にマルバイチヤクソウ、ウツボグサ、ヤマハハコ、キリンソウ、ヤマボウシ等の花が楽しめる。ガレ場を越すと猪苗代湖側の展望が一気に開ける。積まれたケルンから尾根を郡山側に少し行ったところが山頂である。


[アクセス・コースタイム・アドバイス]

御霊櫃峠へは、JR郡山駅からバスで多田野御霊櫃入口下車し、そこからは徒歩となるのでかなりの時間を要する(2時間程度)。従ってマイカーが良い。マイカーの場合は県道長沼喜久田線(県道29号線)から御霊櫃峠方面に入ると約40分で峠に至る。峠には、トイレがある。駐車スペースは車15台程度。バスの運行時間等は福島交通(TEL024-533-2131)へ照会されたい。
御霊櫃峠(30分)黒岩山(30分)大将旗山(1時間10分)額取山(2時間30分)御霊櫃峠
◆猪苗代湖からは遮蔽する山が無く、季節風の直撃を受ける。そのため稜線上は、天候が不安定な場合は強風が吹き荒れるので悪天候時は無理をしない。また、一帯はツキノワグマの生息地である。春先に小熊に遭遇することがあるが餌などは決してやら無い。また、ペット病から野生動物を保護するため犬連れも遠慮すること。

25千分の1地形図
「山潟」「磐梯熱海」、「岩代中野」

フクシマシャジン

カワラナデシコ

テリハノイバラ

リョウブ新葉輝照

キリンソウ

クサボタン

マツムシソウ

センボンヤリ

アズマギク

コキンバイ

エゾエンゴサク

ヒメイチゲ

花マップ額取山

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