奥羽山脈花回廊(6)高土山(たかどやま)

                                        佐藤   

長沼町にある高土山(たかどやま)は標高729mで、その麓には藤沼湖自然公園を抱えている。リゾートを意識して整備された山麓地域とは一線を画すかのように、多くの古木が佇む静かな森である。高土山は会津に接する山域であるが、浜通りに多いシロダモの自生が認められ、この山の植生を標徴している。また頂上には珍しいオオウラジロノキの大木が植生している。森林区分としてはクリ・コナラ林であるがイヌシデの植生も多く、ミズナラやヤマハンノキが混生する。また林床植物としてはチゴユリが頂上まで優占する。ちなみに会津田島町にも高土山があるが、こちらは標高1078mの-たかつちやま-である。

登山口は藤沼湖西端に整備された日本庭園の吾妻屋前で、大駐車場脇に「高土山登山コース」の看板が設置されている。案内に従って砂利敷きの林道を歩いていくと右に別の駐車場を見て右折道があるところからスギ、ヒノキの人工林となる。そのまま直進して沢沿いの道を辿る。道沿いにツリガネニンジンやアキカラマツ、ユウガギク、キバナアキギリ、ノハラアザミ、ヒヨドリバナ、イヌヨモギ、ヤブタバコなどが観察できる。間もなく舗装された林道・戸渡藤沼線に出る。出口付近にはオカトラノオやノダケがまとまって植生する。道を横断し、左に少し行くと沢状になったところに木で組まれた階段がある。これが実質的な登山口である。この辺り、春は登山口脇の沢でネコノメソウの群落、秋にはオトギリソウやヤマハッカ、ノコンギク、ヤブタバコ、ヤマハギ等の花が楽しめる。スギ植林地に設けられた登山道を春であればアカネスミレ、タチツボスミレ、アケボノスミレ、ヒトリシズカ、ツボスミレ、夏からはミズヒキやツリフネソウ、ヤマジノホトトギス、アカソ、サクラタデ等が縁取り、マムシグサも良く目立つ。人工林は程なく切れ、登山道は進行方向左側に573m峰の小尾根をたどるようになる。上り口付近にはイワウチワの群落が見られる。この小尾根からはアカマツが混じる広葉樹の二次林となる。伐採されてから2、30年ぐらい過ぎただろうか、径15〜20cmほどのクリやコナラが優占する林中にはヤシャブシ、ウラジロノキ、シナノキ、リョウブ、マンサク、ウワミズザクラ、カスミザクラなどの中木も見られる。その間をミヤマガマズミ、ガマズミ、オオバクロモジ、ヤマツツジ、コゴメウツギ、ナツツバキ、ミツバウツギなどの低木がうめている。林床をチゴユリ、マイヅルソウ、オクモミジハグマ、アオヤギソウ、タガネソウ、アキノキリンソウ、クルマバハグマ、ヤブレガサ、ヤマジノホトトギス、オオバショウマ、ノハラアザミ、オヤマボクチ等が被う。この辺り、春にはタチツボスミレ、マキノスミレ、アケボノスミレなどの群落が見事である。またクスサンの繭なども観察できる。10分程で第1展望台と書かれたアカマツを切り開いた休憩点があり、藤沼湖や長沼の町を眺める事ができる。林床にはアオキやウリハダカエデの稚樹が見られる。第1展望台から少し登ると登山道は右折し、高土山を直登する尾根に取り付く鞍部への下りとなる。このあたりはカエデ類が多く、ハウチワカエデ、コハウチワカエデ、ウリカエデ、ウリハダカエデ、カジカエデ、オオモミジ、イタヤカエデ、ヤマモミジ、ウラゲエンコウカエデ等が観察できる。鞍部は登山道分岐となっており帰路の案内がある。またこの辺りはイヌシデやコナラの大木に混じりオオウラジロノキ、ミズナラ、サワシバ、マルバアオダモ、クマシデも見られる。左側に登山道を分けるあたりの斜面下ではエンレイソウ、アオキ、キクザキイチゲ、アズマイチゲ、カタクリ、マムシグサなどが植生している。間もなく傾斜がきつくなり、森も古木が混じる成熟した森の様相となる。イヌシデやコナラなどの巨木が見事である。特にイヌシデは樹皮表面の流線形の縞模様が美しい。また鞍部までは見られなかったヤマハンノキが頂上までかなりの頻度で植生する。急登に疲れた頃に右側に分岐があり、イタヤカエデの大木を控えた第2展望台に至る。斜面にはシロダモやツリバナの幼木が植生し、ヒトリシズカ、オクトリカブト、ヌスビトハギ、キバナアキギリ等が群落を形成している。展望台から迂回路をたどって登山道に戻ると傾斜は更に増し、潅木や下草の植生は少なくなり、足元が滑りやすくなる。それでも春にはフデリンドウ、エイザンスミレ、チゴユリ、秋にはキバナアキギリ、ヤマハッカ、イヌヨモギ、ヤマシロギク、ヤクシソウ、ヤブマメ等が数株ごとまとまって植生している。植生を撹乱しないように細い踏跡をたどってジグザグ歩行で登る。アマニュウやウグイスカグラ、ベニバナツクバネウツギ、ミヤマナルコユリ、ヤマユリ、ギンリョウソウ、ギンランなども少ないながらも姿を見せる。潅木ではコゴメウツギが優占種のようである。ようやく登山道も緩やかになるとまもなく山頂に飛び出す。ウラゲエンコウカエデとウラジロノキの大木の間に「高土山山頂」の立派な道標が建っている。山頂一帯はアカマツを交えた広葉樹林でクリ、コナラ、シデ、カエデ類に加えクサギやタムシバもみられる。曲線的な幹影が織り成すアンサンブルが見事である。また山頂の中央部で独立樹としての存在感を示すかのように枝を上空に広げているオオウラジロノキの大木の樹姿は壮観である。間違ってもこの頂上の美林を犠牲にして展望台などの構造物を造るような為政者が現れることのないように祈りたい。残念ながら頂上標識のすぐ近くに、最近イチョウが植樹された。どのような目的なのが気になるところである。東斜面からは、藤沼公園、長沼の町並み、遠くは阿武隈山系に至る展望が広がる。

帰りは、鞍部まで戻り、帰路の案内にしたがって樋状の窪地を下る。すぐにスギの植林地となり、斜面を巻く様に登山道が切られている。スギ林のため花は少ないが、それでもヤマジノホトトギス、コバギボウシ、タガネソウ、ヤマハッカ、オオバショウマ、トリアシショウマ、ミヤマカラマツ、ショウジョウバカマ、オミナエシ、クルマバハグマなどが観察できる。10分足らずで舗装された林道に出る。左折して林道をたどる。この帰りの林道からは、高土山の山容が良く見える。林道両側の植生を観察しながら歩く。林道沿いでは潅木が目立つ。コナラやウワミズザクラ、ヒメコウゾ、ミツバウツギ、ヤブデマリ、コゴメウツギ、ミヤマガマズミ、ヤマハギなどの自然植生に混じり、夏から秋にかけては法面などにキクイモやイヌホオズキ、アメリカセンダングサなどの帰化植物も多く見られる。20分〜30分ほどで林道の登山口に戻る。


[アクセス・コースタイム・アドバイス]
◆藤沼温泉までは、JR東北本線須賀川駅から福島交通バス長沼町方面勢至堂行き約40分、追出沢下車、徒歩約10分。登山口までは藤沼温泉から徒歩約10分。マイカーの場合は、東北自動車道須賀川ICから国道118号線経由、約40分。林道・戸渡藤沼線には、県道郡山長沼線(県道29号線)から入る。
駐車場(10分)林道登山口(10分植林地鞍部(25分)第1展望台(25分)第2展望台) (30分)高土山頂上(25分)下山口分岐(15分)下山路林道口(25分)林道登山口

25千分の1地形図

「長沼」


新緑の高土山ハイキング

ヤマハッカ

キバナアキギリ

チゴユリ

ノダケ

オオバショウマ

ウリカエデ

ミツバウツギ

ヒメコウゾ

フデリンドウ

ヒトリシズカ

ヤマツツジ

高土山花マップ

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