奥羽山脈花回廊(5)川桁山  
                            丸山 旭

  (山の概要)

 長大な奥羽山脈の中で標高が1400mを超える山はほとんどが火山で、非火山というのは数えるほどしかない。猪苗代盆地の東に聳える川桁山は、磐梯山の陰に隠れてあまり注目されない山であるが、実は、奥羽山系の非火山性山岳の中では数少ない1400mを超える標高を持つ山の一つである。

 山奥まで林道が延び全域に伐採や人工林の植栽など人の手が入っているが、登山道の周辺では概ねブナなどの自然林となっている。

 登山口は川桁の観音寺から観音寺側沿いの林道を経由するものと、長瀬の内野集落から林道を入るものの二つがある。最近は素朴な自然の雰囲気を損なうほどの整備が進む山々が多い中、人工物のない野性味ある山歩きが楽しめる山である。

(コースガイド)

 観音寺からのコースは、ホテルリステル猪苗代の川向かいにある観音寺からの林道歩きで始まる。この林道は大雨などの後には乗用車では途中までしか入れないこともある。最初は杉林の中を進むが、詰めていくと沢沿いの広葉樹林の中を行くようになる。普通の山登りでは退屈なものと相場が決まっている林道歩きであるが、4月頃には道沿いにキクザキイチリンソウ、ニリンソウ、カタクリ、ウスバサイシン、ミヤマキケマン、ミヤマカタバミ、ヤマザクラ、イタヤカエデ、キブシなどの沢山の早春の花が咲き、暖かい春の光を浴びながらのんびり歩くのも楽しい。

 林道終点の広場からいよいよ山道に入る。しばらくはヤブマオやトリアシショウマなどが茂る傾斜の緩い涸れた沢状の地形に沿って登り、やがて水流のある小沢に出る。この沢沿いでも早春のニリンソウが見事である。沢沿いの道では、春から盛夏にかけてラショウモンカズラ、ムラサキケマン、サワハコベ、コンロンソウ、センジュガンピ、クルマバソウ、タマガワホトトギス、オオバミゾホオズキ、ウバユリ、クガイソウ、イケマ、キツリフネ、ミヤマカラマツ、オニシモツケ、ギンラン、ノリウツギ、バイカウツギ、カンボク、タニウツギなど、季節が進むのに合わせて沢山の花々が楽しめる。途中、サワグルミの大木が気持ちの良い空間を作り出している。伐採の入った森や手入れのされていない人工林から受ける雑然とした印象とは対照的だ。沢沿いの道を詰めていくと急な斜面に取り付く。 ハナニガナ、オトギリソウなどを足元に見ながら一登りで尾根に出る。ここは川桁山と天狗角力取山の鞍部で、南側の展望が開ける。これより西方にある川桁山頂方面に向け背の低いブナの中の尾根筋を進む。7月頃には足元にツルアリドオシが沢山の花を付けているのが見られる。途中、日当たりのよいところにはコバノフユイチゴの群落も見られる。山頂へ急ぐことばかり考えていると踏みつけてしまいそうだ。ただ歩くのでなく、足元の生き物に気を配り興味を保ちながら歩くと、つらい登りも苦しさが半減する。

 尾根道が終わると道は川桁山山頂部の急斜面に取り付く。途中、日当たりの良い湿潤な斜面にはヤグルマソウの大群落がある。ブナの樹林帯の急斜面に入ると、足元には、ツクバネソウ、エンレイソウ、サンカヨウ、ツバメオモト、マイヅルソウ、チゴユリなど、ブナ林ではお馴染みの花々が出迎えてくれる。

 急斜面をはい上がるようにして登ったところが南北に長い頂上稜線である。三角点のある山頂は、東に安達太良連峰の山並みを見ながら稜線をさらに北へ300mほど辿ったところにある。山頂までの尾根筋では、足元に細々とアカモノ、イワナシの群落が続いていて、それぞれ5月から7月にかけて花が楽しめる。

 内野集落へ下るコースは、標高1413mの山頂から矮小化したブナ林の尾根を西へ辿る。5月頃であればムラサキヤシオ、オオカメノキが新緑に彩りを添える。足元にはチゴユリ、ツバメオモトが沢山花を咲かせ、注意して歩けばタケシマランも見られる。

 道は稜線を離れるとブナ林の中の急斜面を下る。これよりカラマツの植林地帯までエンレンソウやツルシキミ、ウスバサイシン、スミレサイシン、サワハコベなどが見られる。辺りがブナ林からカラマツ林に変わると林道に出る。

 林道周辺でも、春にはクルマバソウ、ムラサキケマンなどが路傍を飾る。やがて別荘地が現れ林道の悪路は終わる。車道をさらに進めば内野の集落である。 

(アクセス・コースタイムアドバイス)

観音寺口

 JR川桁駅から観音寺を経由して林道を入り登山口まで約3km。林道の状態が良ければマイカーで登山口まで入れる。登山口の駐車スペースは2〜3台程度。

登山口(70分)天狗角力取山の鞍部(70分)山頂

内野口

 内野集落から林道を辿ることになるので、足はタクシーが便利である。しかし、林道も終点近くになると狭く急で乗用車では無理なので、途中の別荘地までが無難。マイカーの場合、途中適当な駐車スペースを見つけるのが難しい。

登山口(40分)尾根筋(70分)山頂

アカモノ

コバノフユイチゴ(マルバフユイチゴ)

オニシモツケ

センジュガンピ

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