奥羽山脈花回廊(13)二岐山

                                                                  丸山 旭

 (山の概要)

  二岐山は那須連峰から北に連なる山々の一峰で、標高1267.7mの古い火山である。山頂部は西岳と東岳の二つに分かれており、安積平野から眺めるとそれが二つのこぶになって見える。しかし、小白森方面から望むとなかなかピラミダルな山容であり、見る方角で印象が異なる山である。

 登山道は南側から登るものと北側から登るものの二本あり、林道歩きが入ってしまうが二俣温泉を起点に周回することもできる。

 山自体はかなり伐採は入っているもののブナ林に覆われ、特にアスナロが多く混交しているのがこの山域の特徴になっている。また、ヤマグルマやクルマバハグマが多く、これはこの山から那須甲子連山にかけての奥羽山脈南部に特徴的な植生である。

(コースガイド)

 二岐山の登山口は南北に二つあるが、ここでは南側から登って北側に下山するコースを紹介する。天栄村湯本を通る国道118号から標識に従い二俣温泉方面に進む。二岐温泉の旅館街を過ぎる、二岐川に架かる橋を渡るとその先は林道になる。二岐川沿い林道を上流へと進むと、途中、鍋がご神体で、平将門にまつわる伝説があるお鍋神社を過ぎるとほどなく標識のある登山口となる。山道に入ってすぐに急坂になる。辺りは鬱蒼としたアスナロ林で、ところどころでブナやミズナラ、ヨグソミネバリが混じる。地面には大きな石がごろごろしており、表土が薄いのがアスナロが多いことと関係しているようにも思われる。日光が余り入らないため林床の植生は薄い。低木ではヒメアオキが目立つ程度である。

 傾斜が緩やかになってくると原生的な素晴らしいブナ林に変わり林内も明るくなる。6月頃であればサワハコベやツクバネソウ、クルマムグラが見られる。しかしブナ林はすぐに終わり、伐採地跡に出る。日が照りつける伐採作業道跡のような道の脇には、春から初夏にかけてタチツボスミレ、ヒロハテンナンショウ、ノアザミ、ハナニガナ、オオバクロモジ、クマイチゴ、コハクチワカエデが、夏から秋にかけてはエゾオヤマリンドウ、キンミズヒキ、ネジバナ、ハンゴンソウ、ナンブアザミが咲く。

 道は右にカーブし再び林の中に入る。ブナ林の中をトラバース気味に登って行くが、春早くはキクザキイチリンソウ、初夏にはチゴユリ、タケシマラン、ツクバネソウ、ウスバサイシン、マイヅルソウ、トチバニンジン、オオカメノキなど、ブナ林におなじみの花々が迎えてくれる。

 やがて道は再び傾斜を増しかなり急になってくる。しかしその分道沿いの花が目入りやすくなり、これらをゆっくり楽しみながら登れば息も切れずちょうど良いペースになる。傾斜が緩んで木々の背丈が低くなると、程なく360度の展望が得られる東岳の山頂である。山頂付近は潅木帯で、初夏にはツルシキミ、ハクサンシャクナゲ、アズマシャクナゲ、ホツツジ、ヤマグルマ、ゴゼンタチバナ、ハイイヌツゲの花が楽しめる。

 ここから西岳へはさらに北西へ向かって一端下り、ブナ林の中を登り返すと西岳山頂であるが展望はない。ここから北東へ200m程進んだところに小さな石のお宮が祀ってあり、北から東側にかけて大きく展望が得られる。東岳から西岳間はあまり背の高くないブナ林となっており、ハクサンシャクナゲ、マイヅルソウ、ツバメオモト、ミドリユキザサ、タケシマラン、オオカメノキ、タムシバ、クルマバハグマ、コメツツジなどが見られる。

  お宮から北側登山口への下りは潅木帯の急坂で始まり、すぐに見事なブナ林の中の下りとなる。あとは麓まで単調で急な坂道である。しかし周りのブナ林が素晴らしいので、ブナ林の眺めや植物を観察しながらゆっくり歩くと良い。マイヅルソウ、クルマバハグマ、オクモミジハグマ、カニコウモリ、ツクバネソウなど、ブナ林におなじみの花々がそれぞれの季節に出迎えてくれる。これらの花々は大変地味だが、近づいてよくみると花の造りがなかなか面白い。

 傾斜が緩み、森の様相がブナからミズナラなどの二次林に変わればまもなく林道に出る。ここから二俣温泉までは約3kmの車道歩きとなる。

(アクセス・コースタイムアドバイス)

南口(お鍋神社口)

 二岐温泉まではJR須賀川駅からのバスはあるものの便数が少なくマイカーが便利。ただし、現在温泉街の対岸で林道が崩壊していて車両が通れないため、マイカーの場合は天栄村野仲の集落のやや下郷町よりから入る林道を辿らなければならない。駐車スペースは登山口手前のお鍋神社入り口に2〜3台程度。

登山口(50分)伐採跡(90分)東岳山頂

北口

 二岐温泉から林道を徒歩かマイカーで入る(約3km)。駐車スペースは3〜4台程度。

登山口(100分)西岳(20分)東岳


ハクサンシャクナゲ

ヒロハテンナンショウ

オオバクロモジ

コミネカエデ

クマイチゴ

ヤマブドウ

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