吾妻・安達太良花紀行79 佐藤 守

タカネアオヤギソウ(Veratrum maackii var. parviflorum f. alpinumシュロソウ科シュロソウ属)

   

   

吾妻連峰・亜高山帯のチシマザサ草原や、やや水はけの良い砂礫地に植生する多年草。アオヤギソウの高山型の品種。別名クモイアオヤギソウ。母種のアオヤギソウはクリ・コナラ林からブナ林にかけてのやや湿った林内に植生する。アオヤギソウは安達太良山域のブナ林帯でも度々見かけるが、タカネアオヤギソウは、吾妻連峰の一部の山域でしか確認できていない。近縁種にタカネシュロソウがある。花被片色が、黄緑色がアオヤギソウ、赤紫系がシュロソウに分類されている。しかし、アオヤギソウの花被片色の変化には紫から緑色まで連続性がある。アルカロイド類のジェルビンを含む有毒植物である。

葉は互生。根生葉のみで、両側から花茎を包むように着生する。葉形は長楕円形から広卵披針形で変異が大きい、葉面には平行脈が走り、縦に波打つ。

花は頂生、茎の上部に複総状花序を着生する。花序の苞は披針形である。小花はユリ科の花と同様に3数性を示し、花被片、雄しべ数は6。花色は黄緑色で花被片の周辺は暗茶褐色に縁どられる。また花被片中央部も暗紫褐色を帯び、梅の花のような形状を示す。葯の色は黄橙色。雌しべの柱頭は白色で成熟すると3裂する。花被片各部の色合いは個体により変化し、花の外観は万華鏡のようである。東北地方では最下部の花序の長さとその基部の苞の長さの関係でアオヤギソウとタカネアオヤギソウの識別が可能で、タカネアオヤギソウは苞の方が長い。また、両種の垂直方向の植生域はブナ帯を挟んで明らかに乖離している。

何度も出会いながら見過ごしていた美しさに、突然気づくことがある。タカネアオヤギソウもそんな花である。高山山麓を散策していたある日、垂直に連なる小花を咲かせた1株のアオヤギソウに遭遇した。その端正な立ち姿と濃緑の小花の色合いに魅せられてしまった。その後、タカネアオヤギソウの多様な花被の彩色模様に気づいた。内側の花模様はカタクリのハニートラップ同様に神秘性を感じさせる。植生地により花の様相が異なるようなのでタカネアオヤギソウを鑑賞する山行脚をしてみようかと思う。

ミヤマコウゾリナHieracium japonicum キク科ヤナギタンポポ属


ミヤマコウゾリナ

カンチコウゾリナ

   

吾妻連峰の草地に沿った砂礫地に植生する多年草。日本固有種。低地に植生するコウゾリナ(コウゾリナ属)とは属が異なる。コウゾリナの高山型はカンチコウゾリナ(タカネコウゾリナ)である。カンチコウゾリナは吾妻・安達太良連峰には植生していない。また、ミヤマコウゾリナは吾妻連峰の一部の山域でしか確認できていない。ニガナとコウゾリナは「ミヤマ」と「タカネ」を冠した植物があり、なかなかややこしい。ニガナに比べればコウゾリナの方が分かりやすいかも知れない。

葉は互生。根生葉と茎葉を着生する。根生葉が発達し、茎葉は少ない。葉形は倒披針形から長楕円形で葉縁は全縁で鋸歯はない。カンチコウゾリナの葉には鋸歯がある。葉の両面と花茎には褐色の剛毛と白い腺毛がある。コウゾリナは剃刀菜で剛毛に由来する。

花は頂生。根生葉から伸びた花茎は、頂部で分岐しその先に頭花を1個着生する。頭花は5枚の花弁が合着した舌状花のみで、筒状花はない。舌状花はほとんど直立して平開しない。雄しべは5本。葯が合着し、花柱を囲む。雌しべの柱頭は2つに分岐する。総苞は黒みを帯び、褐色の長毛と白色の短毛を密生する。

ミヤマコウゾリナは白い花茎と黒い総苞のコントラストが印象的。真夏の飯豊山に登ると乾いた登山道の所々で群落が見られる。吾妻山域ではおなじみとはいえないのだが、リンネソウを訪ねた際に、やはり乾いた斜面に咲き始めた数株に出会った。最近は飯豊山に登れていないので久しぶりのご対面である。実は、白山で似た植物に出会っていたのだがこちらはカンチコウゾリナであった。コウゾリナは夏の埒浜防災緑地湿地でお目にかかっていた。