吾妻・安達太良花紀行78 佐藤 守

ツリガネニンジンAdenophora triphylla var. japonicaキキョウ科ツリガネニンジン属)

通常は5

 裂片が6

   

吾妻・安達太良連峰の沢沿いや明るい草地に植生する多年草。尾根沿いでも砂礫が多く水はけの良いところで個体が見られる。別名トトキ。「トト」は筒を意味し、朝鮮語に由来するという。若い茎葉は山菜として利用される。茎葉からは白い乳液が分泌する。属名のAdenophoraは、ギリシャ語で腺を有するとの意味で、茎や葉に乳液を出す腺細胞があることが語源とされている。古書では里の道端でも普通に見られると記されているが、今では、それなりの山に登らないと見ることはできない。近縁種にフクシマシャジン、ハクサンシャジンがある。

葉は輪生で根出葉は長柄を持ち、ほぼ円形。茎葉は長楕円形または披針形で先は尖り、緑に不規則な鋸歯がある。葉身中央に太い葉脈が走る。茎葉は34枚ずつ輪生する。茎葉に毛がある。

花は頂生、茎の上部に、円錐花序を伸ばし、数段連続して長い花柄を持つ釣り鐘型の合弁花を数個輪生または互生する。花は下段から咲き昇る。花冠の先は5片に分かれ、先端部が反転する。雄しべは5個、葯の色は黄色。雌しべは1個で柱頭は紫色で成熟すると3裂する。花柱は長く花冠から突き出る。開葯しても柱頭が裂開していないことから雄ずい先熟とみられる。花冠の色は白から紫色で個体によって色合いは様々である。ガクは披針形で鋸歯がある。フクシマシャジンは鋸歯が無く全縁であることで区別される。同様の識別はヒメシャジンとミヤマシャジンでも適用される。高山性のハクサンシャジンとの区別性は不明瞭である。

ツリガネニンジンは会津の山を登っていた頃に、何気なく山に咲く花として覚えていたが、その印象を強くしたのは吾妻連峰の草原で大群落に遭遇した時である。草丈の高い植物なので単独でも目立つのだが、釣り鐘状の花を着けた数十本の花茎が風に揺られる様は颯爽としていて心地よく、時の経過を忘れてしまうほどであった。花を着けた姿は長身の麗人である。ツリガネニンジンの英名はLadybells。日本での変種であるこの花への命名の由来を知りたいものである。本種は変異が多いので、それを探すのも楽しい。

オゼミズギクInula ciliaris var. glandulosa キク科オグルマ属

   

吾妻連峰の湿原に植生する多年草。日本固有種であるミズギクの変種。同属のオグルマ、キオン属に属するサワオグルマなどは花の外見が似ているが、吾妻山域では本種の植生地が最も標高が高い。

葉は互生。根生葉と茎葉を着生する。茎葉の着生は少ない。茎は暗赤紫色。分岐せず直立する。茎や葉には長い軟毛がある。茎葉はやや厚みがあり、葉形は卵状披針形またはへら状。先は尖る個体と尖らない個体があるようで茎葉は個体差があるのかもしれない。基部は茎を抱く。葉縁は滑らかで、葉全体に長い軟毛が密生する。茎の中部から先の茎葉の裏には腺点が多く分布することでミズギクと識別する。根生葉はロゼット状の全縁へら形で開花期まで枯れない。オグルマは根生葉が開花までに枯れるが、茎葉は大型で多く着生する。

花は頂生。根生葉から花茎を直立し、頭花を1個着生する。オグルマは花茎が分岐する。頭花の外周は雌性の舌状花が1列に並び、内側は多数の両性の管状花がボタン状に密生する。雄しべは5本。葯は合着し、花柱を囲む。雌しべの柱頭は2つに分岐する。雄ずい先熟。

就職したその年に登った飯豊山でウサギギクに出会った。ウサギギクの頭花は大きく華やかであった。その印象が強く、高山に咲くタンポポの様な花といえばウサギギクという固定観念が定着していた。その後、茂庭山系の沢源頭部のキンコウカの群落が発達した湿原でウサギギクに似た花に遭遇した。当時は、山岳の植物について特にこだわりがあったわけではなかったので、その花の名前を調べることもなくそのまま記憶のタンスに収められた。それから数年が経過し、本格的に吾妻連峰の植生調査に専念する中で、本種の群落に遭遇し、吾妻連峰にはオゼミズギクが生育していることを初めて知った。その後、山麓では、サワオグルマにも出会った。しかし、オゼミズギクの母種であるミズギクはまだ見たことが無い。ミズギクは山地の湿原等に植生していると解説書には記載されているのだが・・・。ツリガネニンジンとハクサンシャジンと似たような関係にあるのかもしれない。