吾妻・安達太良花紀行77 佐藤 守


ツマトリソウ
Trientalis europaeaヤブコウジ科ツマトリソウ属)


   

吾妻・安達太良連峰のブナ林から亜高山針葉樹林の湿った林縁や草地に植生する多年草。合弁花であるが花冠が深く7裂するため花弁の様に見える。一見、キヌガサソウを小さくしたような印象だが、キヌガサソウの白い花弁の様に見えるのはガクで全く異なる植物である。垂直分布は標高12501700mで植生域は広い。

葉は互生で下部の葉は小さく最上部の葉は大きく輪生状に着く。形は先の尖った楕円形で主脈から側脈が平行に走る。葉縁は全縁で鋸歯が無く滑らか。

花芽は腋生、先端の葉腋から花柄を伸ばし、白色の花を上向きに

つける。花冠は7弁に分かれて咲き、雄しべは7個、雌しべは1個ある。花は通常は1個であるがまれに2輪着生させる個体もある。名前の由来は裂片の先端が紅色に染まる個体があり、その様を鎧の「褄取威(つまとりおどし)」になぞらえたことに由来するとされる。

1988年夏に高山の原生林を守る会として最初の本格的な高山の植生調査を行った。第1回目に紹介したツルニンジンと同様に麦平から頂上に至る登山道沿いで白い小さな花が咲いているのを見つけた。それがツマトリソウであった。名前は穂積氏から教えてもらったのだが、白い花弁に光が散乱してダイヤのように七色に煌いているのが強く印象に残った。以来、ツマトリソウは私のお気に入りの花となった。初見が高山山頂部付近であったこともあって高山植物のイメージが強かったのだが、ブナ林登山道沿いのチシマザサに覆われた一角でも群落を形成しており、植生域が広いことに最近気づいた。7つの裂片または花弁を持つ花は稀な上、ツマトリソウは雄しべも7本であり、何か幸運をもたらす花ではないかと勝手に思い込んでいる。

キバナウツギWeigela maximowiczii スイカズラ科タニウツギ属


   

吾妻・安達太良連峰のブナ林のやや湿った林内に植生する落葉低木。ツクバネウツギと異なりガクは開かず、上部の短い3裂片と下部の長い2裂片に分かれる。

葉は対生。葉柄は無い。葉形は先の尖った長楕円形で葉縁は細かい鋸歯があり、葉身はやや波打つ。葉の両面に毛がある。

花は頂腋生。枝梢先端とそれに続く葉腋部から漏斗状の合弁花を2輪着生する。花冠は5裂し、下部3裂片の中央部は広く、内側に橙色の網目状紋が入る。雄しべは5個で雌しべは1個である。雄しべは5個の葯が平板状に合着する。柱頭は半透明で円盤状。雄しべは雌しべの上部に着生し、開花間もない花の葯は柱頭から離れているが、老化すると葯は花柱に接する。花冠の色は蕾から開花初期は緑白色であるが、成熟すると黄色みが強くなる。裂片が赤紫色に縁どられる個体が存在する。

ブナの新緑の季節に山を散策すると、沢や雪解け水が停滞する様な窪地でこの花の不意打ちに合うことがある。樹木の花の撮影に没頭していた今から約20年前、ウツギ類はタニウツギとツクバネウツギ(タキネツクバネウツギ)で一段落した感があったのだが、西烏川流域に残るブナ林を散策していたところ、薄緑色の花を咲かせたウツギに出会った。明らかにツクバネウツギより大型であった。ガクがツクバネ状でないことからキバナウツギと判定した。その後、中吾妻等の奥羽山脈や阿武隈山地で度々、本種に遭遇した。その時はいつもひょっこり現れるのだが、それは適地が限定されたコロニー的植生であることの裏返しに他ならない。