吾妻・安達太良花紀行76 佐藤 守

シロヤナギSalix jessoensisヤナギ科ヤナギ属)


雌花序


雄花序

樹形(雄株)

   

吾妻・安達太良連峰のブナ林からコナラ林までの河川沿いに植生する落葉広葉樹。河辺林を代表するヤナギである。ユビソヤナギが植生する流域ではユビソヤナが水際の転石帯に植生するのに対しシロヤナギはそれより上部の砂礫地に植生する。樹高は20mに達し、オノエヤナギ、バッコヤナギより高木となる。バッコヤナギ→オノエヤナギ→シロヤナギの順に植生地の湿性度が高まるようである。樹皮は短冊状に剥皮するので主幹の様相からも他のヤナギ類と識別できる。雌雄異株。

葉は互生で葉の形は細長く先端は尖り、葉縁には先の尖った鋸歯がある。表面は光沢が有る。若い葉の葉縁は巻かない。裏面は粉白色で絹毛が密生する。葉柄は軟毛が生え、托葉は小さい。

花芽は腋生、花は花弁とガクを欠く裸花が集合した穂状花序である。雄花は有柄で白毛に覆われ小葉はオノエヤナギより大きい。花穂はオノエヤナギより細長い。雄しべは2個。花糸は離生し基部に黄色の腺体が2個ある。葯は黄色である。雌花の子房には白い軟毛が密生する。腺体は1個。柱頭は黄白色~緑白色で反り返る。バッコヤナギ、オノエヤナギは葉の展開よりも開花が早いが、シロヤナギの開花期はバッコヤナギ、オノエヤナギよりも5~7日程度遅く、葉の展開と同時に開花する。開花した雄株は樹全体が明るい黄緑色に包まれ優美である。

森林生態系保護地域指定に向けた中吾妻踏査で初めてシロヤナギの存在を知った。その後、樹高4m程度まで育ったシロヤナギが倒れているのに遭遇した。それから数年後にその倒れた樹の地際から幹が伸長し、立派な樹冠を形成していた。その姿からは倒木の過去は想像できない。シロヤナギの再生力の強さを見た思いがした。シロヤナギの分布域は広く、高山を水源とする荒川下流域には大木が点在している。シロヤナギの種子が宙を舞う姿を見たのがきっかけで柳絮(りゅうじょ)という言葉を知った。

メギBerberis thunbergii  メギ科メギ属


ヒロハヘビノボラズ

   

吾妻・安達太良連峰のコナラ林のやや湿った林床に植生する落葉低木。枝や根の煎じ液は黄色で抗菌作用がある事から目薬として用いられたのが樹木名の由来である。また、メギ属の学名から命名されたベルベリン(アルカロイド)という成分を含み、整腸薬として用いられる。境植、生垣用として山採りされたためか、群落は少ない。近縁種にヒロハヘビノボラズがある。

葉は互生。長枝と短枝があり、短枝では束生する。葉形は倒卵形~楕円形で葉縁は全縁で滑らか。葉裏は白色を帯びる。枝の各節に葉が変形した刺が着生する。コトリトマラズ、コトリスワラズ、ヨロイドオシの別名がある。

花は生。葉腋部から総状花序を形成し、小壺の様な花を数輪、下向きに着生する。一見、合弁花に見えるが離弁花である。3数性で花弁、ガク片ともに6枚。ガク片は緑白色、花弁は黄白色である。花弁の基部に大きな黄色の蜜腺が2個ずつ付く。雄しべは6個、葯は赤みを帯び花糸に内着しその先に2個の弁がある。開葯は同科のサンカヨウと同じ仕組みである。雌しべは円筒形。柱頭は緑色、大きな円盤形で目立つ。ガク片は3個ずつが2層になり6個付く。内側の3個は花弁より大きく同形で、外側のガク片は小さい。開花時に花弁に触れると内側に曲がる内曲運動を起こす。

数年前に岳友と花を求めて不忘山に登った際に、鋭い刺と刺状の鋸歯を着けた枝葉を持つヒロハヘビノボラズに出会った。下から覗くと黄色い小壺の様な花のツリーが下がっていた。その姿は見たことのない美しさであった。その後、吾妻山麓の湿性地で似たような刺を着けているが葉には鋸歯が無いメギを見つけた。翌年、花時を予測して訪れたところヒロハヘビノボラズより清楚な花が開いていた。