吾妻・安達太良花紀行75 佐藤 守

ツクバネウツギ(Abelia spathulataスイカズラ科ツクバネウツギ属)

クバネウツギ(高山)


ツクバネウツギ(塩手山)


ベニバナノツクバネウツギ

   吾妻・安達太良連峰のコナラ林からブナ林下部の林縁に植生する落葉広葉樹。ツクバネウツギの仲間にオオツクバネウツギ、ウゴツクバネウツギ、タキネツクバネウツギ、ベニバナノツクバネウツギがある。この中で、ウゴツクバネウツギはツクバネウツギの変種で日本海側に分布し、太平洋側を中心に分布するツクバネウツギとは棲み分けが見られる。ベニバナノツクバネウツギは高山から額取山にかけての奥羽山地や花塚山等の阿武隈山地に局所的に植生する。
 葉は対生し、短い葉柄を持つ。葉形は卵型楕円形で先端は帯状に尖る。葉脈は側脈が葉形に沿うように平行に流れる。葉縁には粗い鋸歯がある。
花は頂性で、発芽後伸長した緑枝の先に頭状花序を形成し、2個の釣り鐘状の合弁花を着生する。花冠は2唇弁状で上唇は2裂、下唇は3裂する。下唇の内側には橙色の網目状の紋様が入る。ガク片は5裂し外側に開く。ガク片の形状がツクバネに似ていることが命名の由来である。雄しべは4個、花柱は1個で黄色の柱頭が雄しべの間から突き出る。花弁の色は白が基本であるが、淡黄色や淡紅色を帯びる個体もある。ベニナナノツクバネウツギは花冠が短く、花弁は濃赤色で、淡紅色と橙色の網目が内側にみられる。
高山では淡紅色の個体が多く、タキネツクバネウツギに似るが葉の形状が明らかに異なる。また中吾妻山麓は淡黄色系が多い。純白のツクバネウツギは吾妻・安達太良山系で遭遇した記憶が無い。

高山の植生調査を始めた頃からツクバネウツギは気がかりな灌木で、花の色が純白の個体は希でタキネツクバネウツギかベニバナノツクバネウツギではないかと迷ったが、葉の形態等がしっくりいかず消化不良の状態のまま現在に至っている樹木である。

イカリソウ(Epimedium grandiflorum var. thunbergianum メギ科イカリソウ属)


イカリソウ


キバナイカリソウ


シロバナイカリソウ

   吾妻・安達太良連峰のコナラ林のやや湿った林床や断崖斜面に植生する多年草。ツクバネウツギと同様に吾妻山系では福島側と山形側でキバナイカリソウとの棲み分けが見られる。
 葉は根茎芽から長い葉柄を伸ばしその先に23出複葉を3輪生する。
小葉は先の尖った長いハート形で葉縁は粗い鋸歯があり、その先端は禾状の毛がある。葉の表面は成葉化すると縁から内側にぼかし状に赤みを帯びる。葉の裏と茎には柔らかい白毛が密生する。
 花は腋生。葉茎の基部および節から花茎を伸ばし総状花序を形成し、錨型の花を数輪、下向きに着生する。一見、合弁花に見えるが離弁花である。ガクは8片であるが外側の4片は開花直後に落下し、花弁状の内側の4片が残る。花弁は4枚で外側は蜜を蓄えた距を形成する。花心側はラッパの様な筒状を呈し、その基部に雄しべを着生する。雄しべは4個で花糸、葯共に黄色である。雌しべは1個で花柱は緑色、柱頭は黄色である。ガクと花弁の色は赤紫色で株により濃淡がある。希にシロバナ株が見られる。
 ピークを目指す山登りに精を出していた頃、職場の上司からキバナイカリソウの群落を知らないかと聞かれた。滋養強壮に抜群の効果があるのだと言う。当時、野草に興味がなかったので聞き流していた。花の写真撮影を始めて間もなくイカリソウの花に出会った。その特異な姿に特別な効能がある植物は花の形も変わっているものだと感心した。イカリソウに含まれるイカリインというフラボノール配糖体が薬効の主成分らしい。花を楽しむだけで充分精気が養われると思う。