吾妻・安達太良花紀行73 佐藤 守

ズダヤクシュ(Tiarella polyphyllaユキノシタ科ズダヤクシュ属)

吾妻・安達太良連峰のブナ林から亜高山針葉樹林の湿った林床や沢付近に植生する多年草。ズダヤクシュは同じユキノシタ科のチャルメルソウ属と近縁とされる。確かに、葉や花序の形態はズダヤクシュとチャルメルソウは似ており、特に花はエゾノチャルメルソウを彷彿させる。植生地から推察するとチャルメルソウの方が水辺を好むようである。ズダは信州地方の喘息を意味する方言で昔から喘息の薬として利用されたことから薬種の名が付いた。処方としては開花期に全草を採取し、洗浄して日干し後葯20gを煎じるか、酒に浸漬する。

葉は地下茎から発生した根生葉と茎葉がある。茎葉は互生で、葉形は円から広卵形で先端は鈍角に尖り、カエデに似る。基部は心形で内側に切れ込む。葉縁は浅く3〜5裂する。葉質は柔らかく葉の両面ともに毛が多い。根生葉の葉柄には短い腺毛が着生する。種小名は「たくさん葉のある」ことを意味する。

花は頂性である。根茎から花茎を伸ばし、茎葉を数葉着生した先に総状花序を形成し、約1020個の小花を下向きに咲かせる。花茎、花柄ともに茶褐色で短い腺毛が多く着生する。花弁のように見える筒状の器官は萼で、萼片は白く深く5列する。萼片の表面には白毛が密生する。萼片の間から5本の白い糸状の花弁が四方に伸びている。雄しべは10個で葯はクリーム色。葯は萼片の外側に連なって垂れ下がっているように見える。雌しべはやや赤みを帯びた棍棒状の花柱が長く伸びその先の柱頭は白く小さい。自家和合性である。受粉はハナアブやコハナバチによる虫媒である。

ズダヤクシュの子房は2裂し、果実は2つの心皮が非対称の舟形に成長し、下側が長い。この構造により,下部の心皮が雨滴によって下に押し下げられた後に跳ね上げられる「跳ね台機構」による種子散布を行っている。この種子散布法を雨滴散布と言う。確かに開花のタイミングは入梅の頃で、この時期にブナ林を散策すると花の下側から耳かきのような緑色の果実片を覗かせたズダヤクシュに出会う。

ベニバナニシキウツギ(Weigela decora f. unicolor タニウツギ科タニウツギ属

安達太良連峰の岩稜帯付近に植生する落葉広葉樹。吾妻・安達太良山域にはタニウツギ属ではタニウツギ、キバナウツギ、ツクバネウツギ属(リンネソウ科)ではツクバネウツギ、ベニバナツクバネウツギが確認されているが本種は吾妻連峰では今のところ確認できていない。ニシキは二色で花色が白から紅色に変わることに由来するが本種は最初から紅色なので変異種小名は一色を意味するunicolorとなっている。タニウツギ属ではニシキウツギが太平洋側に、タニウツギが日本海側にすみわけ分布している。ベニバナニシキウツギの北限は宮城県南部で県内では阿武隈山地が植生の中心である。ウツギ類は地上部が柔軟で岩屑や土砂の崩落、移動に耐えうる生育形態を有しているとされる。ベニバナニシキウツギの植生が確認された場所は登山道沿いで、散在的であることから、外部からの混入の可能性も捨てきれないが、本来の隔離分布としたらその地理・気候的背景はどのようなものなのか興味深い。

葉は対生。葉形は倒卵状楕円形。葉縁は細かい鋸歯が赤く縁どられ、先端は細く尖る。葉は短い葉柄がある。葉身には深い曲線状の葉脈が走る。葉の裏面脈上には縮れた伏毛が密生する。

花は頂腋生。側生した短枝の先端、または数節に亘って葉の付け根から集散花序を形成し26個の漏斗状の左右対称の合弁花を着ける。花冠の色は濃紅色で開花前の蕾の先端は黒ずむ。花冠の先端は5裂する。花冠筒部は拡大部より短い。雄しべは5個、花糸は桃色を帯びその先にへら状の黄白色の葯がつく。雌しべの柱頭は白色で花冠の外に突き出る。萼筒は狭い円筒形、基部まで切れ込む。

梅雨の晴れ間をついて、体力作りをかねて、いつもの箕輪山に至るルートを辿った。このコース沿いの植物は何故か赤みの濃い花が多い。通い慣れた登山道だけに場所により出会う植物もよく分かっている。しかし、これまで見たこともない派手な色をまとったウツギの仲間に出くわした。例年より生物季節が進んでいたためなのか。同行者に断りを入れて本格的に撮影を始めたが、日頃の行いが悪いせいか、肝心な時に限って山風の意地悪を受ける。