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クリ・コナラ林からブナ林に植生する落葉広葉樹。吾妻・安達太良山域では山麓から標高1000m辺りの日当たりの良い林縁に植生する。ヤナギは主幹が発達し立木性を示す種類と主幹が発達せず潅木状に生育する種類に分けられる。キツネヤナギはイヌコリヤナギ、ネコヤナギ、ミネヤナギと同様に潅木状に生育するヤナギである。また、キツネヤナギは木部に隆起条を有するが、隆起条を有するタイプのヤナギは挿し木発根性に乏しいことで知られる。
葉は互生である。明瞭な葉柄を有する。葉身は楕円形で先端は尖る。葉縁は浅い波状の鋸歯がある。表側は緑色、裏側は白色を帯びる。新葉の縁は巻かない。ヤナギ類の中では葉は大形に属するが、葉の形態はバッコヤナギに酷似する。バッコヤナギの新葉の縁は裏側に巻くこととバッコヤナギの方が、厚みがあることが相違点であるが、葉だけでの識別は困難である。
花は腋性である。雌雄異株で葉が展開する前に開花する。雄花の開花始めは花糸が接合し、葯は緑色を帯びるが、開花が進むと2本の雄ずいは離れ、葯の色は鮮やかな黄色となる。雌花の子房は黄緑色で無毛、柱頭は透明で2裂する。雌株の中には雌花の子房が赤色を呈するものが見られる。苞は淡黄緑色の楕円形で先端は褐色を呈する。苞の両面に白色から黄色の毛が着生する。バッコヤナギの子房は有柄で有毛、苞は黒色であることで識別できる。キツネヤナギの名の由来は苞の毛の色がきつね色(鉄さび色)を帯びることに由来する(種小名はきつね色を意味する)が、きつね色が明瞭になるのは開花後である。
毎年、4月になると、早春の息吹を探索に吾妻安達太良山麓を徘徊するのが30年来の習慣となっている。このキツネヤナギは、その黄色い雄花が尻尾をねじらせたように咲いている様が印象的で、徘徊を始めた頃から気になっていた。しかし、当時はカエデに夢中でヤナギの分類の仕方が分からないまま、毎年、尻尾の様なヤナギが咲くとその愛くるしい姿を楽しんでいた。それがキツネヤナギであることを知った今でも、雄花の花の姿の方がその名にふさわしいと思う。そう言えば、葉がよく似たバッコヤナギの雄花の姿の印象はタヌキかも知れない。 |
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亜高山帯の針葉樹林に植生する匍匐性の常緑性低木。一属一種である。自生地が北極を取り巻くように連なる分布を示すため「周北極要素」群として分類される代表的な高山植物である。吾妻安達太良山域で見られるコケモモ、ミネズオウ、ツマトリソウ、ムシトリスミレ、ミツガシワ等の植物も同群に属する。高山植物は森林限界より標高の高い地域に植生する植物と氷河期の氷河と共に南下してきた植物が、氷河期後に隔離されて残った遺存植物を併せた植物群を指す。
葉は対生。葉形は円〜短楕円形。葉はやや革質で葉の表面は照りがある。葉縁は内側に巻き込み上半身に緩い鋸歯がある。葉脈は裏側にくぼむ。一対の小葉を各節につけた匍匐茎が縦横に走り、緑の絨毯を織りなす。
花は頂性。匍匐茎から立ち上がった花茎が二股に分岐しその先端に漏斗状の合弁花2輪を下向きに着生する。花茎と花柄には腺毛が密生する。萼片は5枚で花冠の先端は5裂する。花弁外側はガク周りから淡い桃色がぼかし状に入り、裂片では色が抜けて白色となる。花冠の内部は外側より濃い紅色を呈し長い毛が密生する。雄ずいは4本でそのうち2本が長い。雌ずいは花冠の外に突き出る。花柱は淡黄白色で柱頭は透明である。リンネソウは種子繁殖性に乏しく地下茎による栄養繁殖で個体群を維持している。
リンネソウの花は小さく質素で目立たない。その一対の小さな花が群落全体に点々と咲きそろい風に揺れる様は柔らかく儚い。二名法の提案者で有名なスエーデンの植物学者カール・フォン・リンネが最も愛した花と言うのは意外だが、この花の姿から安らぎと癒しを甘受していたのかもしれない。吾妻連峰には特定の場所にしか自生しない植物が幾つか存在する。リンネソウもその一つである。しかも北方の飯豊山や南方の安達太良山には植生しない。それだけに吾妻連峰の自生地は貴重であるが、感性豊かな花巡り仲間と訪れたその植生地は登山者による踏みつけのリスクが高い所であった。 |