吾妻・安達太良花紀行37 佐藤 守

オヤリハグマ(Pertya triloba キク科コウヤボウキ属

 

コナラ林からブナ林にかけての林床に生育する多年草。植生域は茨城県、福島県、宮城県、山形県に限定されており、福島県はその中心に位置する。類似種には温度適性が寒冷地型のオクモミジハグマと暖地型のカシワバハグマがあるが、オヤリハグマはその中間の温度適応性を持つ。カシワバハグマは吾妻連峰では確認されていない。

葉は互生で、株の中間部に深く3裂する(種小名trilobaはこれを意味する)大型の葉が数枚、放射状に着生する。葉柄と葉身の長さはほぼ1:1である。葉縁には粗い鋸歯がある。初めてみた時は、西洋の騎士がこの葉の形に似た槍を持つ光景を映画か絵画で見たことがあるような気がした。しかし、名前の由来は花の形にあると言う。

開花期は9月頃で、株の先端に円錐花序を形成する。分岐した花茎は基部の葉先が尖った卵形の包葉と少数の頭花で構成される。1つの頭花には1個の小花しかないのがオヤリハグマの特徴である。小花は両性の筒状花で多くのキク科が持つ舌状花は無い。花冠は白色で深く5片に切れ込み、各裂片はねじれるように反転する。雄しべは筒状に密着し雌しべの花柱を囲む。雄しべの葯は紫がかった褐色である。柱頭は筒状の雄しべから突き出て2裂する。柱頭の位置が葯より高いことに加え、雄しべの方が早く成熟する(雄性先熟)性質を持つので自家受精は困難な仕組みとなっている。受粉は虫媒であるが、小花の数を多くつけることがマルハナバチなどの訪花昆虫に存在をアピールする効果があるので葉面積が一定以上(100u程度)に達しないと花を着けないと言う。

オヤリハグマとカシワバハグマの雑種としてセンダイハグマが区分されたがオヤリハグマと同種とする見解もある。ともあれ、福島の気候風土に最適な植物であることを知るとオヤリハグマに何となく親しみを感じるのは郷土愛というものだろうか。

ルイヨウショウマ (Actaea asiaticaキンポウゲ科ルイヨウショウマ属)

ミズナラ林からブナ林にかけての林縁や林床に生育する多年草。

葉は互生。根生葉はなく、茎葉のみ1、2個着生する。茎葉は大型の2〜4回3出複葉である。小葉は先の尖った楕円形で葉縁は鋭い鋸歯がある。この大型の葉の形状がサラシナショウマに似ている(類葉)ことが名前の由来とされる。また見方によってはレンゲショウマの葉とも似ている。これら3種は葉裏の脈上の毛で識別できる。細毛がルイヨウショウマ、屈毛はサラシナショウマ、無毛はレンゲショウマである。面白いことに属名はニワトコを意味するギリシャ語でこちらは葉がニワトコに似ていることに由来するという。

花は総状花序でサラシナショウマやオオバショウマと比較すると極めて短い。また開花期も5〜6月で夏以降に開花する他のショウマ類よりかなり早い。小花のがく片は4個が基本で開花と同時に落下する。花弁は4〜6弁で開花後間もなく落弁してしまう。雄しべは多数あり花弁より長い。雌しべは花柱が無く、子房に飯粒のような柱頭が直接着生している。8月になると伸びた花柄の先に黒紫色の球形の果実が1個ずつ着き木琴のばちを刺し揃えたような形状となる。

2007年の幕川観察会で果実をつけた株に出会って初めてこの植物の存在とこの山域での自生を知った。花の時期が不明で花を見るのはたやすくないだろうと思ったが、翌年、磐梯山でその花に遭遇することができた。これまで何度か経験した発見の連鎖である。種子と根茎で繁殖するにもかかわらず他のショウマ類と比較して吾妻・安達太良連峰での植生地は極めて少なく、また群落も小さいように感じる。開花時期や果実の色の変異(赤と白があるらしい)と合わせて謎が多い植物である


 
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