吾妻・安達太良花紀行36 佐藤 守

ヤマモミジ(Acer palmatum var. matsumurae カエデ科カエデ属

イロハモミジの亜種に分類されている落葉高木。日本海多雪地型植生とされ、太平洋型植生のオオモミジと対比されるが、福島では鹿狼山や国見山など太平洋沿岸の山でも普通に植生している。

葉は対生で、形は掌状葉である。掌状脈を中心に5〜9個に深く裂ける。裂片の先端は長くとがり、各片の周縁は著しい欠刻状の重鋸歯がある。裂片の大きさは不ぞろいで、中央の3辺が大きく長い。裂片の数が5個の個体はイロハモミジによく似ている。ブナと同様に葉の成長は前年の貯蔵養分でまかなわれるため樹全体の葉の大きさはそろっている。

花は雌雄同株。葉腋から複散房花序を下垂し、同一の花序に雄花と両性花が混在する。小花はがく、花弁ともに5片あり、がくは赤色、花びらは緑白色で赤色の脈がある。雄しべは8個で葯は黄色である。果実の翼果の角度は鈍角〜やや鋭角で、初夏の頃には緑白の地に赤く着色し美しい。イロハモミジの翼果の角度はほぼ水平なので区別できる。

冬芽は仮頂芽タイプで、通常は枝の先端に2個の冬芽をつける。植生域が重なるハウチワカエデと比較して枝が細く、冬芽も小さい。冬芽の中には翌年に展開する葉が全て収まっている。林冠の小さなギャップ(日の当たる空間)でも発芽更新しやすいので、成熟した森林でも若い株を観察することが多い。

吾妻・安達太良山域での代表的なカエデである。特にミズナラ林からブナ林にかけての沼地や沢の近くで多いように感じる。ハウチワカエデと比較して花の姿は質素で繊細。そのため、注意して観察しないと花を見逃してしまうことも多いが、果実は花とは対照的で、赤い衣をまとった姿に、思わず見入ってしまう。秋口は光の条件により紅葉と黄葉が混在するので緑の葉を交えたグラデーションがよく映える。また、若い枝は冬でも緑色を呈しているので、冬の森では瑞々しい緑の株がよく目立つ。

ミヤマハンノキ (Alnus maximowiczii カバノキ科ハンノキ属)

亜高山帯〜高山帯に生える落葉低木。パイオニア種(遷移初期種)として噴火経歴のある山頂周辺の裸地や風衝地にいち早く侵入しミヤマハンノキ林を形成する。生長が早く、萌芽性に富む。

葉は互生。ダケカンバの葉を一回り小さくしたような形で先端は尖り、彫りの深い側脈が羽状に走る。葉縁には細かい重鋸歯がある。葉裏に腺点があり、発芽間もない時期には粘りがある。

花は雌雄同株。雄花は純正花芽で雌花より先端に着き、雌花は混合花芽で2枚の葉の先に散房状の有柄花序を直立させる。この雄花と雌花の位置関係は同じパイオニア植物のダケカンバ、ヤシャブシと共通している。雌花の雌しべは初め透明感のある白であるが次第に穂の先端から鮮やかな赤に変色する。花には甘い香りがある。

冬芽の鱗片は2枚で黒味を帯びた茶色で粘りがある。幹は柔軟で雪の圧力にも湾曲して適応する。幹肌は滑らかだが皮目がかなり大きく目立つ。

ミヤマハンノキは、根粒菌と共生しているため空中窒素を固定して栄養分とすることができる。葉の窒素含有量が多く、緑色を保持したままで落葉するため土地を肥やす効果が高く「肥料木」としても有名である。根は礫を包み込んで固定する性質が強いので崩壊地の保全植物として期待されている。

吾妻連峰の浄土平、安達太良連峰では鬼面山や前が岳、磐梯山では沼の平でまとまったミヤマハンノキ林が形成されている。山域と標高により共存する樹種が異なっており、ダケカンバ(浄土平)、ブナ(鬼面山)、ヤシャブシ(前が岳)、ヒメヤシャブシ、アキグミ(磐梯山)などが山の植生を特徴付けている。開花期を迎えたミヤマハンノキの姿は、雄花の鮮やかな黄色とその上に開きかけた葉の緑、その間から突き出た雌花の赤がバランスよく散らばり、漂う甘い香りと相まってなかなかにぎやかである。


 
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