東北ブナ紀行(2)   奥田 博

前回に続いて白神山地のブナを紹介する。白神山地はブナの森だらけと考えられがちだが、登山道から拝める素晴らしいブナは、限られてしまう。白神山地で登山道のあるのは、最も人気のある白神岳をはじめ、崩山、前号で紹介した高倉森、岳岱を擁する藤里駒ケ岳、天狗山、真瀬岳、二ツ森、泊岳、小岳、長場内岳、田代岳であるが、見応えのあるブナとの出合いは少ない。今回も前回に続いて白神山地のブナ紀行を。

3)秋田県・白神山地・白神岳
 白神岳を登って白神山地を登ったと思う人もいるが、山頂から東側に連なる白神山地の大きさを実感し、西の端に立っただけだという感慨を持つことも事実。ブナ・ブナ・ブナの樹海に圧倒されるのだ。

ところが、この白神岳への登山道から見えるめぼしいブナは少ない。それでもマテ山付近には、いいブナ林が続く。尾根に上がる手前は、原生的な雰囲気に満ちている。一本素晴らしいブナといえば、実は登山口を入って間もなくに現れる。登山道はその一本のブナを囲むように付いているので、周囲からグルリと鑑賞できる。丈も高く、風格のある一本だった。

■(コースタイム)
白神山登山口(1時間30分)マテ山分岐(2時間)白神岳山頂(2時間30分)(1時間)十二湖


マテ山周辺のブナ林

4)青森県・白神山地・天狗岳
 白神山地は世界遺産に登録されていることは、衆目の知るところ。この世界遺産にも松竹梅とランク分けがなされている。自然にランクはないのだが、何せ外側は道路や伐採地などで人間に荒らされている。だから、干渉地帯(バッファー)を設けて、その影響を和らげようという苦肉の策だ。その核心部分をコアと呼ぶ。この天狗岳は、バッファーとコアを分ける北端の峰である。山頂に立てば、南側に広がる白神は全てコア地帯なのである。県道に格上げになった弘西林道は、どんどん橋を広げたり、舗装化を進め、観光道路化が着々と進んでいる。天狗岳は、その弘西林道・天狗峠から管理用の道をたどって登れる。登って直ぐに、岩木山の美しい姿が眺められる。遠く海岸線も眺められるが展望はここまで。立派な案内板が何ヶ所かに立っていたが、「携わる職員以外の通行はご遠慮ください」とある。林野庁や環境庁の 職員以外は歩いてはいけない道なのだ。この役所の根性が情けない。次第に見事なブナ林に変わってゆくのが分かる。1時間も入ると、原生林の怪しい雰囲気がかもし出され、それが肌で分かるようだ。エゾハルゼミが鳴く以外には、本当に静かな森歩きだ。結構歩いて、やっとの思いで天狗岳山頂に着いた。そこからはブナ特有の丸い塊が、幾重にも重なって、白神山地のブナ原生林の核心部が、眺められた。

■(コースタイム)
天狗峠(2時間30分)天狗岳(2時間30分)天狗峠  


天狗岳山頂からのブナの森

 


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