18 奥田 博

地熱発電のこと

  6月上旬に二岐山を訪れ、久し振りに山麓の二岐温泉に泊まった。「大丸あすなろ荘」の主人である佐藤好億(よしやす)氏とは以前、拙著「ふくしまブナ巡礼」に、福島県の自然保護先駆者として登場してもらった。二岐山のブナ伐採を阻止した、恐らく福島県内では初めての事例だった。彼が再び我々の前に登場したには、一昨年高湯温泉に原発に変わる再生可能エネルギーの発電方式として地熱発電所を造る話が出てきた一昨年のこと。詳しくは会報で佐藤守さんが報告しているので、読んで頂きたい。
 温泉の露天風呂に入る。二岐川縁に造られた温泉は、源泉も川から湧いているという。川を眺めながら湯に浸ると森の中の温泉に入っている
錯覚にとらわれた。温泉から上がって部屋に戻ると、机の上に『地熱発電の隠された真実』〜温泉文化滅亡の危機〜という本が置かれていた。それは佐藤好億氏が今まで日本全国を走り回って反対運動を繰り広げた分厚い474ページにも及ぶ記録集(A4版)だった。恐らく彼は私費を投じて作ったのだろう(1500円という格安な定価からして)。見たい方、読みたい方は一報ください。貸出します。
 佐藤守さんの報告書にもあるが、地熱発電をもう一度整理しておくとメリットとしては、@再生可能なエネルギーであることA純国産のエネルギー資源であることB化石燃料のように枯渇の心配がないことC季節や時間の変化による影響を受けにくいこと
 デメリットとしては@温泉への影響・温泉地の景観への影響(候補地の多くが温泉地・または温泉地周辺であること候補地の多くが国立公園や国定公園に指定されていること)A地質調査や発電所建設作業など、実際に発電が始まるまでに長い時間がかかり、コストパフォーマンスが良くないB発電後温泉の湯を戻す際に硫酸処理したり、温泉成分としてヒ素や硫化水素が含まれ、その処理技術が未確立。
 一方、土湯温泉にバイナリー発電という聞き慣れない発電所の話が新聞に載った。くみ上げた温泉の熱で沸点が低い特殊な液体を気化させてタービンを回し発電する方式。一基あたりの出力は250kwと小出力。西山温泉の大規模地熱発電所の出力は65,000kwとザーと260倍。先の『地熱発電の隠された真実』でも「バイナリー発電は、温泉の余熱利用は有効で容認」とあった。高湯温泉に造りたいのは、もちろん大規模地熱発電所だ。
 佐藤好億氏の肩書は、日本温泉協会・副会長、日本秘湯を守る会・名誉会長(昨年まで会長)、福島県温泉協会会長、福島県自然環境保全審議会委員、磐梯・吾妻・安達太良地熱開発対策委員会・顧問といった具合ですから、宿で会うことが出来なかった。宿泊当日は23時に帰宅し、翌朝は6時に新白河駅に向かったという多忙さ。従業員も身体を気遣っていた。私へのメッセージ「来年2月になったら私も宿も暇だから、ぜひ再訪ください」とのことだったので、山スキー持参で行こうかと考えている。

 

 今に残った二岐山のブナ

 

 

土湯温泉のバイナリー発電機(左)と西山温泉の地熱発電所(右)
発電機と発電所の違い、規模が全く違うことが分かる