17 奥田 博

巨大防潮堤は何を生むのか

   今年1月から3月にかけて宮城県七峰山登山口から深山、鹿狼山を経て大沢峠までの実際の歩行距離は31km、累積標高差2188mを歩いた。そこで目にしたのは、車の通行できる峠は、すべて山が切り崩されていた現場だった。亘理・山元両町と角田市の境尾根の道が無くなり歩くことが出来なくなくなったり、道が迂回したりする場所もあった。北から大沢峠、小斎峠、高瀬峠、明通峠の東、鴻ノ巣峠、割山峠、箕輪峠、七峰東側の烏鳥屋山などは、土砂が運ばれ、粘土むき出しのすさまじい状況。その元凶は、海岸線に見えた白いライン巨大防潮堤でした。
  復興予算は、この5年で26兆円使ったとNHKで放映していた。かさ上げや堤防工事などインフラ整備で14兆円、産業復興で5兆円、被災者支援で2.5兆円、原発対策で3.6兆円。インフラ整備の内、1兆円規模の事業費をかけ、岩手、宮城、福島の3県でつくる防潮堤の総延長は400キロになる。東京から仙台市に届く距離だ。
  これだけの金が東北に使われたのだから当然、東北は空前のバブル状態で、皆の所得が増えて、町も活性化したハズなのだが、庶民にはまったく実感がない。岩手・宮城・福島3県の沿岸を総延長400キロにわたってコンクリート堤防で覆う総事業費約1兆円の万里の堤防では金は、土木関係者にだけ回っているのだ。それも現場で働く作業者には微々たる給料増加くらい。ゼネコンは自民党と同党の政治資金団体国民政治協会が平成25年2月、日本建設業連合会(日建連)に対し、47100万円の政治献金を要請していた。ゼネコンが潤い、それを自民党が吸い上げる構図は、昔も今も変わらない。
  震災は少子高齢化で町村の過疎化を早めただけ。復興と言うが、元に戻っても、昔来ていた客が戻ると言っても、客も高齢化しているので、客も減衰して行くのは分かっていた。地方創生と叫んでいても、現実には限界家屋や限界集落が日本国中に挙げれば切りがない位に存在する。現在の避難地区は次第に狭まるだろう。しかし震災前から過疎化や限界集落化が進んでいたのに、震災によって拍車がかかってしまったのだ。もう元に戻ることはあり得ない。

 万里の長城のような防潮堤だが、完成したのはまだ14%ほど。「美しい海と暮らしが分断されてしまう」そんな思いから建設に反対する住民もいる。海岸を覆うコンクリートが海辺の生態系に与える影響も心配されている。被災地の暮らしを守るはずの巨大な壁。先の亘理地塁に沿うように海岸線には白い防潮堤が肉眼でも見ることができる。その高さは陸前高田や大船渡の15mに比べれば、亘理・山元・新地・相馬辺りの7m前後と低い。それでも山が無くなるほどの土砂が必要なのだ。「人の命を守る」という大義名分で「里山の自然」と「海岸線の自然」の破壊が進む。

 

 

 

海岸線に並行して巨大な構造物を消波堤と呼び、その内側に防潮堤が築かれる(左) 

箕輪峠の土砂採掘現場(右)