東北ブナ紀行(59 奥田 博

  「大震災が教えてくれたもの」(]X)

待ちに待った!?原発再稼働〜変われない日本〜

 福島の事故から4年足らずで川内原発が稼働を開始した。安全保障関連法案に目を奪われた絶妙なタイミングをうまく利用したものだ。ドサクサに紛れての再稼働ともいえる。2014年の都知事選では、小泉純一郎元総理が、細川護熙元総理を候補にして反原発を訴えた。しかし自民党が応援した舛添要一現都知事は原発問題を争点にすることを避けて圧勝。そして今夏、マスコミや世間の関心が安全保障関連法案に向かっている隙に、川内原発を再稼働させた。実に巧妙にしてしたたかな戦略。国民の70%は再稼働に反対しているという世論を無視したものだ。もっとも安全保障法案にしても60%が反対または拙速と感じていても通す。これが安倍流であることを認識すべきだ。戦争の責任や、明らかに人災である原発事故の責任も、当初は問題になっても、やがてうやむやにしてしまう国民性。あとは「忘れやすい国民」特性を生かして、ホトボリが冷めたころに選挙をやれば安泰なのだ。

 福島原発事故を受けて、川内原発には新基準に基づく多くの防止策投資が行われた。新基準をクリア出来て、これは信じがたいが、万が一に事故が起きた場合の住民の避難に関しては、福島原発の事故前と何も変わっていない。起きたらどうやって避難させるか、具体性・実現性に乏しい。避難訓練で課題が見えても、それを放置する行政。世界一厳しい基準、電力需給逼迫、原発は安い、火山噴火予知可能そして万全な避難計画、どれも嘘で固めたとは元官僚の古賀茂明氏の言。

 前福島県知事佐藤栄佐久氏の著書『知事抹殺〜作られた福島県汚職事件』(原発事故前に出版されたところがスゴイ)の後に出た『日本劣化の正体』も悲しい面白さがある。その著で最後に二本松生まれの歴史家 朝河貫一が予見していた日本の姿・政治の姿がある。「原発事故調」の報告書の中で、委員長の黒川清氏は朝河貫一を引用して次のように書いている。「朝河は、日露戦争に勝利した後の日本国家のありように警鐘を鳴らす著『日本之禍機』を著し、日露戦争以後に『変われなかった』日本が進んでいくであろう道を正確に予測していた。(今回の原発事故は)『変われなかった』ことで起きた」。佐藤栄佐久は本著でこう結んでいる。「黒川委員長の指摘に、原子力ムラの人たちが正面から向き合うことは、残念ながら、これからも決してないであろう。彼らは安全でない原発を安全だと言いくるめてきた人たちである。もともと原子力ムラは、倫理観を喪失した人たちの集まる所である」。

 佐藤栄佐久氏の有罪決定(賄賂はゼロだったが有罪という前代未聞の判決)を受けて、知事の退職金返還を要求した県。一方、前佐藤雄平知事は栄佐久知事が停めていた原発を稼働し、しかも危険なプルサーマルまで認可し、結果深刻な原発事故を招いたが、彼は退職金の返還は求められない。県民が大きな迷惑を被った事故の何とも腑に落ちない世の中だ。しかし国は憲法違反を承知で法律を通すご時世ですから、何が正しく、何が間違っているかを視る目が求められている。変われない国は、変われない国民が支えている。

 

 

原発が事故を起こした日、何も知らされないで給水車に並ぶ人々(左)輸送トラックが福島県に入らずスーパーの棚から食料品が消えた(右)こんなことを繰り返してはならない。


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