東北ブナ紀行(45 奥田 博

 「大震災が教えてくれたもの W」〜花塚山放射能紀行〜

 2012年1月9日、川俣町と飯館村の境にそびえる花塚山を訪れた。参加者は、佐藤守さん、佐藤哲也さん、小幡仁子さん、佐藤久美子さん、渡邊アヤ子さん、と私の六人。今年から阿武隈山地を中心に、線量調査を会として行うことが決まり、その第一回目である。登山道にはわずかに積雪があった。登山口から歩き始めた頃は1μSv/h程度に推移していた。積雪の影響で、線量は幾分弱くなる。マダラの積雪なので、大きな影響はなさそうだ。しかし、スギ林を経てアカマツ林に入ると、いとも簡単に2μSv/hを超えだした。登山道には、赤くなった松葉と、最近落ちた緑の松葉が見られる。マツは常に落葉し続け、2〜3年で葉は入れ替わるという。針葉樹であるがゆえに、2〜3年はセシウムを落とし続けることになる。
 ここで各自の線量計を紹介しておく。線量計の精度は、重要だ。日本では、ほとんど人の目に触れることのなかった線量計であるが、原発事故以来、多くの人が買い求めた。しかし一部には、信頼のおけない線量計も出回っていると聞く。決して安いものではないが、人々の不安に乗じた商売をされた。
佐藤守さんTCS172  Aloka 高信頼性
佐藤哲也さんDP802(RADTEK)中国製
小幡仁子さんRDS30(RADOS)Mirion社製
佐藤久美子さんインスペクター 理研計器株式会社
渡邊アヤ子さんRDS31(RADOS)Mirion社製 TCS172と比較校正済
この中では佐藤哲也さん持参の中国製線量計は1μ以上の場所では誤差はすくないようですが、安定するまで時間(5分以上)を要する。
 花塚山は花崗岩の山で、奇岩や大岩も多い。古くは修験道の山でもあったようで、その名残も見られる。大きな台のような花崗岩でひと休みするが、そこが木に覆われずに空が見えていると線量はさほど高くはないのは、前例の通りだ。ところが市町村境に近い大岩に近付くと、3μSv/hを超える数値を示している。尾根でありさほどアカマツもかかっていない。この場所は、飯館村側の尾根のコル辺りから風が抜けて、この大岩にぶち当たる。だから高いのか?ホットスポットにはなかなか説明の付かない事象が多いように思う。
 飯館村境に出ると、木々の間から飯館村の田畑や人家が望まれる。汚染された田園地帯とは思えない平和な風景が広がっている。三角点の山頂から東屋の建つ花塚台までは2.5〜1.5μSv/hで推移していた。東屋からは遠く太平洋が見えるのだが、よく分からない。
 花塚台から北に向かって下れば、飯館村との比曽分岐となる。このコルは、花塚山ではもっとも高い数値を示していた。コルは風が集中する場所であるのであろうか、3.5μSv/hと大きな数字だ。5m北に移ると1μSv/hほどに下がるから、まさにホットスポットで、同じ雑木林の中で起きている。そのメカニズム解明の難しさを思い知らされた。
北峰の東屋で昼食をとったが、竪岩までは、積雪が5cm程度あって2.4μSv/h前後で推移していた。標高を下げると、線量は2μSv/hを切るまで下がるが、アカマツ林やスギ林の縁では2μSv/hを超えていた。こうして、会としての放射線量計測の山行を終えた。各自持参した線量計の機差が分かったことは大きな収穫であった。ホットスポットのメカニズムは、分からないことが多いことも分かった。これからは積雪期で、数値が下がるので、しばらく計測活動はお休みとなり、春から再開の予定。しばらくは、線量計持参の山歩きは続きそうだ。
震災から1年経った。本当に早い一年だった。年末に南三陸町や石巻を訪れた時に感じたのは、ガレキは片付いたが、他は何も動いていない、何も変わっていないのだ。放射能汚染の福島に目を転じれば、今度は、従来の避難区分から「解除準備区域」や「居住制限区域」、「長期居住困難区域」といった線量による新たな区分に変更する。区分が変わっても、置かれた地域の線量は、ほとんど変わっていない。単に半減期を静かに待つだけだろうか。
この一年間、「ブナ紀行」は実質お休みしたが、次回から再開したい。

 


線量計測は1mの高さで


線量の高かった大岩付近

 


皆で線量計を携えて


戻るブナ紀行目次へ