東北ブナ紀行(42 奥田 博

 「大震災が教えてくれたもの」

 

3月11日、私たちはかつて経験したことのない大地震に襲われた。そしてその一時間後に沿岸部はかつて経験したことのない大きな津波に襲われた。さらに福島県では、原発が制御不能に陥り、広い範囲が汚染され、今も収束の兆しさえ見えない。自然と人の造り出した装置の恐ろしい姿を見せつけられた。関係者は「想定外」といい「人智の及ばない」事象と嘆いた。昔から地震や雷、大雨や大雪や大風など自然によってもたらされた被害は枚挙にいとまない。その度に「想定外」であり「人智の及ばない」事象であったはずだ。我々は自然の前では明日だって想定出来ないのだ。想定外とは何と驕った言葉であろうか。

今回の恐ろしい原発事故は十分な「想定」のもとに対策を講じていないのだから「人災」というべきだろう。「想定外」という言葉を免罪符に使われてはならない。自然には人智の及ばない「想定外」もある。科学は絶対ではないことを知るべきだ。

 一方、大自然の織りなす四季の風景、とりわけ海や山の風景には雄大さや優しさを感じる。海から昇る太陽や穏やかな大海原の雄大な眺め。あるいは深い森の中で受ける緑のシャワーや森で聴く鳥の声、耳をなでる風、あるいは多くの野の花に癒される。厳しい自然現象と優しい大自然、どちらも自然のなせる業なのだ。大自然の起こす地震や津波によって傷ついた人の心を、癒してくれるのも自然でもある。

 今回の原発事故は我々の生活を大きく見直す機会を作った。電気に依存し過ぎた生活を見直し、原発が無くても生活のできるライフスタイルとは何かを考えなければならない。大きな犠牲を払ってしまった日本が、世界に示すことが求められていると思う。「皆の本当の幸い」を探し始めねばなるまい。

福島第一原発の30km圏内には阿武隈の多くの山が含まれている。これからしばらくは、登ることは出来ないだろう。ある人は10年以上入山出来ないと予測する人もいる。そんな阿武隈山地のブナを紹介して、一日でも早い原発の収束を願いたい。

最後に宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に出てくるカムパネルラとジョバンニの会話を紹介してペンを置きます。

カムパネルラが少しそっちを避けるやうにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまひました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔がどほんとあいてゐるのです。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずたゞ眼がしんしんと痛むのでした。ジョバンニが云ひました。「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなの本当の幸いをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一諸に進んで行かう」

 

■今は歩けない阿武隈のブナの山

高太石山(左) 川俣町 「大ブナ」と呼ばれるイヌブナの大木一本が存在感あり

日隠山(右) 富岡町 立派なブナが多く、モミと混在して見ることができる

 

 

高太石山の大ブナ 

 日隠山の大ブナ


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