東北ブナ紀行(40 奥田 博

  山形県の低い山には、ブナのいい山が多くある。瀬見温泉近くの亀割山と東根市近くの雨呼山は、低い山ではあるが、ユニークなブナ林であった。

78)亀割山

鎌倉時代のはじめ、兄頼朝から追われた源義経は、武蔵坊弁慶などのわずかな家来を従えて、北陸路を北に進み、鶴岡から清川に出て、舟で最上川をさかのぼり、ここから亀割峠を越して小国郷に入り堺田を経て陸奥国(岩手県)平泉に逃れたという。亀割山の山道にさしかかると、同行の北の方が急にお産をされて苦しまれた。弁慶は急いで東の沢にくだって水をさがすうちに湯煙を見つけて掘り出したのが、瀬見の湯であると言われる。義経の子は亀割山にちなんで亀若丸と名付けられた。そんな昔話に思いをはせての秋の山旅だった。

 西側の新庄登山口からすぐに杉の急坂ではじまる。その先は、同じような勾配で続く。杉林を抜けると明るい雑木林となる。雑木は紅葉も始まっており明るく輝いて気持ちがいい。そんな対照的な林を楽しんで、そのまま頂上尾根まで続く。山頂から少し下ると、見事なブナが現れ出した。百年以上生きたブナがいくつもあらわれて嬉しくなる。しかしそこだけがブナ原生林であったのだ。御前が出産した場所には神社がまつられていたが、杉に囲まれてそのまま杉林は瀬見温泉まで続いた。さっき忽然と現れたブナ林は、不思議なゾーンだった。
コースタイム:登山口(1時間10分)山頂(15分)ブナ林(1時間)瀬見温泉


亀割山のブナ

 
亀割山

79)雨呼山

「あまよばりやま」とは雨乞いの山である。山中にジャガラモガラと呼ばれる風穴があり、ここには竜神伝説が伝わり雨乞い祈祷も行われていたという。頂上付近には「竜神の池」があり、その途中には「村雲の池」があり、古くから竜神は雨を呼ぶ神として知られる。竜神の池に棲む竜神さまを怒らせて雨を降らせるのだという。

民謡「わかまつさまよ〜」で有名な若松観音から取り付く。尾根に出て道標が現れるが、熊に壊されている。この先の道標は全て破壊されていた。気持ちのいいものではない。鵜沢山を経由して雨呼山に向かうのだが、アップダウンの多い尾根歩きで、道も隠れがち。道の怪しい尾根を越えて、ジャガラモガラからの道を合せる。山頂が近付くと、幹の細いブナ林が広がる。二次林ブナ林は紅葉が始まり、粒が揃っているので、陰影にリズムを感じさせる。山頂は北と南に二つのコブのようにあって、どちらも好ましいブナに覆われていた。50年後は楽しみな森だ。

コースタイム:若松観音登山口(1時間40分)鵜沢山(1時間30分)雨呼山(45分)ジャガラモガラ登山口

 

雨呼山山頂付近のブナ

 
雨呼山


戻るブナ紀行目次へ