東北ブナ紀行(39 奥田 博

  山形の月山、朝日連峰、飯豊連峰は国道などで寸断されているが、実際には尾根続きの峰々であり、ブナ林が延々と続いている。しかもブナの純度が高い。今回は月山さんろくの六十里越え、飯豊連峰の一角である温身平のブナを訪れてみる。

76)六十里越え

古くから鶴岡と川西を結んでいた厳しい峠道。この道沿いには湯殿山神社をはじめ、多くの神社・石塔、僧侶のミイラをまつる寺、あるいは小説「月山」の筆者森敦のゆかりの寺、古民家など、長い歴史を物語る文化遺跡が残る。この長大な道の中で、湯殿山神社から田麦俣までの間は、山道としてしっかりと残り、しかも見事なブナが随所に見られるコースになっている。

登りを避けて、湯殿山神社大鳥居から緩い下り道をたどる。湯殿山神社から流れてくる沢を渡り、山道に入る。すぐにブナ林が現れる。ところがブナの葉はスカスカだったり紅葉のように茶色だったりとオカシイ。酷暑の水不足のせいか、ブナシャチホコムシが食べつくしたか原因は分からない。山形はナラ枯れ被害が多く発生し、他にもミズナラなどが枯れて紅葉のように見える。笹小屋跡、一杯清水から少し登れば、細越峠となる。大きな石板や茂吉の歌碑などが要所にあって飽きさせない。やがて「千手ブナ」と立て看板のあるブナを見る。以前に和賀岳で私が「千手観音のように枝を広げて」と述べたことを思い出す。人間、誰しも考えることは同じだと思う。姿形を見れば、和賀岳のブナの方が枝を一杯に広げているように思えた。ここまで下るとブナの葉は正常で、標高1000m付近が一番やられていることが分かった。花ノ木坂まで来ると林床にユキツバキが混じる。その後国道を横断すれば、ふたたび見事なブナ林に入っていき、目を楽しませてくれる。やがて林道の七ッ滝展望所まで降りて、多層階の田麦俣民家は目の前だった。


コースタイム:湯殿山神社(50分)笹小屋跡(30分)細越峠(1時間)千手ブナ(1時間30分)田麦俣 



六十里の千手ブナ

77)温身平

夏でも雪渓に覆われる石転び沢をたどって飯豊山に登るコースの取り付きにヌクミダイラと呼ばれるブナ原生林がある。その森に遊歩道を付けてブナの森を鑑賞できるようになった。ブナ見直しの現れと解釈したい。飯豊鉱泉で車道を終え、梶川尾根登山口を見送ってすぐに、見事なブナ林が展開する。ブナ以外にも太いヤチダモやトチノキなど見事な木々が見られる。車を通さない林道歩きは、広々としてそぞろ歩きには打ってつけだ。所々にはブナの解説板があって、ブナの初心者にはありがたいかな。その林道に並行する森の遊歩道をたどって戻ることができるが、この道の方が自然を身近に感じることができる。沢に沿っての平坦な道で、意外な場所に花を発見したりと楽しみながら森を歩ける場所であった。

コースタイム:飯豊山荘(40分)林道分岐(40分)飯豊山荘

 

温身平の新緑ブナ


六十里

温身平


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