東北ブナ紀行(37 奥田 博

  山形市西側には、蔵王連峰が連なっているが、大規模スキー場や観光道路などで中腹部のブナの森が少なくなってしまった。しかし蔵王連峰の北、笹谷峠以北の山形神室岳から面白山にかけては、ブナの森が広がっている。一方、山形市の西側には丘陵が広がっているが、その一角の白鷹山には山頂付近にブナが残されている。

72)白鷹山

白鷹山山頂には虚空蔵菩薩がまつられている。古くから、養蚕の守護神として仰がれた山であった。周囲在住の男子は、13歳になると虚空蔵参りをしたといわれる。鳥居の建つ嶽原登山口から歩き始める。参道らしい道をたどり、杉の暗い林の中の道を登ってゆく。しだいに登りが加わると、杉林を抜けて明るい雑木林に入る。ミズナラやブナを中心とした雑木林の急坂に差し掛かり、100年モノのブナも散見される。トラバースの道となり、再び急坂を登り切るると、立派な神社のある白鷹山山頂に到着した。山頂は年代を重ねた杉の森に囲まれて展望は得られないが、神社林として暗さは好ましい。境内といった広さの山頂では、以前には例大祭が大きな規模で開かれていたのだろうか。

下りは大平への道を使い回遊しようと急な階段を降りて、ブナの美しい尾根道を東へと向かう。スッキリとしたブナ林は長くは続かない。白鷹山高原放牧場への分岐を見て、北へと向かう道を下る。突然、登山道の真中に行く手をふさぐように大きなブナが立ちはだかった。周囲は細い二次林なので、その存在感をなおさら感じる。素直に伸びて手を広げ、その先に葉を繁らせる大木は意外に少ない。年を重ねると当り前に育つことが、いかにも難しいのだが、苦節を乗り越えた品を感じるブナだった。

コースタイム:嶽腹登山口(1時間)山頂(30分)大ブナ(30分)大平登山口


登山道の真中に鎮座するブナ

73)面白山

面白い名前の山名だが、もともとは「つらしろ」山であるという。雪が山を覆って、山麓からひときは白く見えた山なのだろう。仙山線面白山駅から歩きだす。列車を降りた客は、それぞれの方向に散らばる。一人、車道を天童方向に進み小さな看板を見て、尾根に取り付く。すぐにブナの二次林に入る。暑い夏の日差しをさえぎり、吹く風を感じる森だ。目立つブナは少ないが、粒の揃ったブナの森が続く。山頂の見える尾根に出ると、ブナは矮小化して、その先に実を付けているのがいくつか見られた。

誰もいない山頂でコーヒーを飲み菓子をつまみ、すぐに県境尾根を南へ向かう。一人だと極端に休憩時間が少なくなる。長左衛門平と呼ばれる峠までは、展望の尾根歩きでいささか熱射病気味。標高1200m前後の夏山は厳しい。長左衛門平を下り森に入って、やっと強い太陽の光から逃れられた。さらに下ると沢の源頭で、流れのそばで昼食とした。顔を洗い、喉を潤し、沢を抜ける風に身をおくと体温が下がってくるのが分かる。落ち着いて周囲を見渡せば、ブナの森が広がっている。本来、ブナの森は混在・混成が基本だ。そんな混沌の森にもある秩序が感じられるから不思議だ。混沌の時代にも、秩序が必要ということかと、すっかりブナの森で長居をするのだった。

コースタイム:面白山駅(2時間30分)面白山(1時間)長左衛門平(10分)水場(1時間10分)面白山駅


風の吹き抜けるブナ林


白鷹山


面白山


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