東北ブナ紀行(36 奥田 博

 山形・秋田県境の鳥海山から丁(ひのと)山地にかけてはブナの森が多く点在している。以前に紹介した中島台と同じようにブナを見て回るコースに鶴間池がある。一方、鳥海山の更に東には怪峰甑山がある。千bを切るものの、南北に雌雄を分かつように男甑と女甑が聳える。

70)鳥海山麓 鶴間池

鳥海山への南側の登山口である滝ノ小屋へ至るジグザクな車道。その途中に見逃しそうな小さな看板「鶴間池へ」が立っている。カーブの膨らみに車を停めると、遥か下には鶴間池が見えた。

登山ではなく下山から始まる。わい性化する直前のブナ林は、そんなに太くなるわけでもなく、中肉中背のブナだが、粒の揃っている点で優れていると思う。池への下降はハシゴやロープに掴まっての急坂で始まる。太いブナがいくつか現れ、羊歯が林床を這う。やがて沢の流れが聞こえると、鶴間池に到着する。水気が多く、平らな場所はブナの好むところ。この一帯はブナが聖地に守られるような平和な場所だ。静まり返った鶴間池の畔には小さな山小屋が建っていた。見事なブナに囲まれて、一夜を過ごしたい小屋だった。

コースタイム:登山口(10分)急坂(30分)鶴間池(30分)急坂終(30分)車道経由登山口


鶴間池小屋の前に根を延ばすブナ

71)甑山

 山形県と秋田県の県境にそびえる特異な岩峰甑(こしき)山は近寄りがたい存在感がある。紅葉の季節に訪れたい山である。

 駐車場から歩き出すとほどなく若い二次林のブナ林に囲まれた三角屋根の小屋も建つキャンプ場に入る。ここから「大カツラ」の表示に従って森の中をたどる。環境省巨木の森に指定されたカツラは実に見事だが、朽ちが激しい。

 ここから男女のコルまで急坂に耐える。ブナ林の間からは女甑の岩場が見える。コルから女甑山を往復するが、山頂からは鳥海山が大きく迫っていた。

 コルに戻って、秋田側の名勝沼に向かって下降する。名勝沼は静まり返っている。ここから南へ向かって県境尾根まで平坦な道をたどる。県境尾根からはブナ原生林の中を山頂へと向かう。急坂が続くが見事なブナ林が気を紛らわせてくれる。そんな中にポッカリと空を明けた空間が広がる。そこには複雑に捩れ折れ曲がったブナが倒れていた。最期に何があったかは知るよしもないが、波乱万丈な人生を思わせる姿に感動する。最近は折れたブナや倒木に目が行くのは、トシのせいだろう。ブナは朽ちて肥やしとなり、大きな空間は次の世代を育む光を存分に与える。人もそんなブナの大木のようになれたらイイ。

やっとの思いで尾根にたどり着けば男甑山頂は近い。男甑山頂からは東側の展望が得られる。男甑のシンボル・鳥帽子岩が象徴的に突出している。先ほど登った女甑も目の前だった。

コースタイム:前森山林道登山口(30分)大カツラ(30分)男女のコル(25分)女甑(20分)男女のコル(30分)名勝沼(30分)県境尾根(40分)男甑(20分)甑峠(45分)登山口    


捩れ折れ曲がったブナ


鶴間沼


甑山


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