東北ブナ紀行(35 奥田 博

 まだ岩手のブナ山である。奥羽山脈の奥深い山のイメージ強い和賀岳は今では簡単に登れるようになったが、それでも手強い登り甲斐のある山に違いはない。仙人山は湯田への入口に山を越える人々を遮るようにそびえる。今では高速道路がトンネルを貫き、ダムが川をせき止め、かつての厳しさはない。

68)和賀岳

私の中で岩手・秋田県境にそびえる和賀岳は秘境である。どちらのコースをたどっても健脚コースではあるが、今では気軽に登れる山になった。今回は岩手側から訪れた。

高下岳登山口まで長い林道に車を走らせ、歩き出す。鼻から急坂で汗をしぼられる。赤沢分岐で一休みするが、ここからブナが素晴らしい。ファインダーを覗いているとブナの展覧会を観ているようだ。二本並んだブナ、枝を分けるブナ、五本行儀良く並ぶブナなど。中でも千手観音のように大きく手を広げているブナは見事だ。高下岳入口から和賀川に降りる。冷たい川の渡渉を終えて再び急坂をたどればブナの森となる。しかし先の粒揃いのブナ林にはかなわないが、それでも一級のブナ林だ。次第にブナは矮少化してやがて森林限界へと出た。ここから山頂が見え、山頂まではすぐだった。

コースタイム:登山口(30分)赤沢分岐(30分)高下岳分岐(30分)和賀川(1時間45分)こけ平(35分)和賀岳


千手観音のような大ブナ

69)仙人山

 工場脇の広場に車を停めて歩き出す。北上線の脇を抜けて、秀衡街道と呼ばれる旧い道をたどるが、石垣などが残っている。樹齢数千年の姥杉は環境省の「森の巨人たち100選」に指定されているが、見た目では疲れているように見えたのが気になる。

 尾根に上がると、ブナは細く、若木か矮少化か判断がつかない。急な登りが収まると展望地へ。早池峰や岩手山の片鱗が少し見える。田んぼが黄金色に染まっている。そこから山頂まで若い細いブナの中をたどった。狭い山頂では三角点を囲んで昼食とした。

 途中まで戻って今度は南に向かって踏み跡薄い道を下りだす。地図では急な斜面を下るはずなので、期待と不安が入り混じっての下り道だ。するとスッキリとしたブナが一本現れる。急斜面の下りはジグザグ道がしっかりと付けられて何ら問題はない。この下りのブナが実に見事だ。太いブナはないが、すっきりとしたブナが、夕陽に輝いて活き活きとしている。

 ここから下ると次第に人臭くなって、やがて鉱山跡地に入っていく。秀衡街道近くの鉱山であれば金の採掘を思い浮かべるが、実際には江戸中期から昭和29年まで350年余掘られたという。鉱山遺跡という名にふさわしい場所に感動した。鉱山の歴史をさかのぼり、戦前までタイムスリップするような錯覚を覚える不思議な場所だった。

コースタイム:和賀仙人登山口(50分)姥杉(1時間50分)山頂(15分)分岐(1時間)水沢鉱山(45分)岩沢登山口(ゲート)  


紅葉にはまだ早かったが、若いブナは輝いていた


和賀岳


仙人山


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