東北ブナ紀行(32 奥田 博

 岩手・秋田県境の真昼岳は以前にも紹介した。しかし岩手県境にはまだまだブナの森は残されている。その一つが真昼岳登山口にあった指標林である。以前から気になっていたのだが、笹峠で行われたカタクリの会観察会の翌日、真昼岳の帰りに訪れることができた。

62)笹峠

観察会の資料とオリエンテーションのお話によれば、岩手の湯田とお隣の秋田を結ぶ峠は、白木峠、萱峠、笹峠、峰越(真昼岳と女神山の間)が使われていたらしい。この内、萱峠以外は歩く道が残されているが、白木峠も笹峠も車道が迫っている。今回、笹峠の「主要地方道花巻大曲線」の必要性を検証するのが目的のひとつだった。
笹峠の秋田側はスギが植林されている。その手前の岩手側には、太いブナが多く見られた。観察のメンバーで南に道をそれると、この周辺ではもっとも太いマザーツリーのブナがあった。この周辺には見事なブナが残されている。ここに将来道路を通す計画があるという。この大きなブナを見ていると、道路計画がボツになることを祈らずにはいられなかった。

コースタイム:新道行止り点(1時間20分)笹峠(1時間10分)新道行止り点


笹峠の大ブナの前で記念写真
(写真 大庭さん)

63)真昼ブナ指標林

 今回訪れた指標林は、真昼岳から下山の途中に立寄った。瀬川陽子さんのガイドで訪れた。この林の中には道形が入り組んでいる。勝手に入り込むと出口が分からなくなりそうだ。もちろん道標とてない。
この周辺は昔、牧場であったらしい。やがて放棄されてブナ林を形成したという。木々は、まだ細くてツブの揃った二次林である。その中に太いブナが散見される。今回の見どころは、瀬川強さんが名付けたマザーツリー・ファザーツリーと最近折れたブナの大木である。マザーツリーに近付くと、それと分かる風格で現われた。周囲の細いブナを従えるようにスラリと端正な樹形を見せていた。樹齢は250年前後だろうか。周囲にはブナの実が、びっしりと敷き付められていた。ここで昼食をとって、コーヒーを飲んだ。
その100m北にファザーツリーと名付けられたブナがある。こちらも見事で、確かに夫婦に見立てた瀬川さんの目の通り、樹形は似ている。近付くと太さも高さでも、少しマザーツリーよりも小さく見えたから、ネーミングは正しい。
踏み跡の無い斜面をたどり、昨年折れたといわれる大きなブナを目指した。そこには真っ二つに折れた見事な最期を見せるブナがあった。寿命か落雷か台風か、いずれにしても「大物の最期はこうあるべし」と思わせる見本のような折れっぷりであった。

コースタイム:指標林入口(1時間)マザーツリー(1時間)指標林入口


二つに折れた見事なブナ


笹峠


真昼ブナ指標林


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