東北ブナ紀行(30 奥田 博

山形県にも多くのブナ林が点在している。特に月山周辺には多くのブナ林が残されている。月山をはじめ、湯殿山、葉山、六十里越え、鍋森、石見堂山など優れたブナを味わうことができる。月山周辺だけでもブナ林を訪れるのに何日もかかるほどだ。共通しているのは、豪雪のせいかブナの木がしっかりとしていること。豪雪に耐えてきたというよりは、豪雪で鍛えられドッシリと根を下ろしているといった風格を感じることだ。

57)葉山(山形県)

山形県には葉山が3つある。長井、上山、そして村山地方。ここで紹介するのは村山の葉山。葉山(端山、羽山など)は里山である場合が多いが、この葉山は1400bを越えて、数ある葉山の中で、標高はもっとも高い。

葉山への登山コースは主に使われているのが3コースある。どれも美しいブナ林が味わえるのが特徴だ。十部一峠からのコースはもっとも楽に山頂に立つことができる。林道の終点手前で車を降り歩き始めると、もう周囲は太いブナが散見される。沢を越えて急坂を登りきると緩い斜面に差し掛かる。それを待っていたかのように見事なブナ林となる。古老のような太いブナ、若いスラッとしたブナ、形の面白いブナ、コケと同化したブナなど見ていて飽きない。涼風が吹き抜けて、ブナの葉がざわめく。エゾハルゼミの鳴き声が一瞬止まって静寂をもたらす。再び、何ごともなかったかのように、森は鳴き声に満たされる。山頂から西に伸びる尾根にたどりつくまで、ブナ林は続くが、見応えのあるブナ林はこの辺だろう。

コースタイム:林道終点(1時間20分)葉山神社(20分)山頂(1時間30分)林道終点


葉山途中のブナ林

58)湯殿山(山形県)

 月山・湯殿山・羽黒山の出羽三山は信仰の山であり、どの山も宗教色の強い山だ。しかし湯殿山だけは、その中腹にある御神体が信仰の対象であり、山そのものには全く宗教臭は感じられない。二万五千分の一地図の湯殿山(1500b)は、国土地理院が名付けたという説もある。
 湯殿山への登山道はない。山頂に立てるのは積雪期のみである。その南側には美しいブナ林が広がっている。登山道もないので残雪期に訪れることになる。積雪期は自由に歩けるので楽しい。近年、スノーシューという西洋かんじきが出回るようになると、誰でもが雪の上を容易に歩けるようになった。
 私は山スキーで湯殿山山頂から滑り降りて、斜面が緩くなったら石跳川へと向かって滑る。無木立の斜面からブナ林に滑り込むと、太い見事なブナが現われた。早速、滑りを中断して、コーヒータイムとした。ブナは乾いた白い木肌を見せている。林の中は風も弱まり暖かい太陽を浴びて気持ちがいい。仲間の顔も穏やかになって、ブナの森を楽しんでいる。結局、もう一杯コーヒーをお代わりして長居してしまった。
 
コースタイム:姥ヶ岳(30分)コル(1時間)山頂(1時間)ブナ林(30分)月山ビジターセンター(以上スキーによる)


石跳川のブナ


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