東北ブナ紀行(29 奥田 博

焼石連峰はまとまったブナ林が残っている。これまでも牛形山、丸子峠、天竺山などのブナを紹介してきた。今回は夏油三山の二つである駒ケ岳と経塚山。経塚山は焼石連峰の南端の山として知られるが、さらに道はないが尾根続きに駒ケ岳がある。これらを結ぶ稜線や山麓にはまとまってブナ林が残されている。

55)駒ケ岳(岩手県)

全国に数ある駒ケ岳であるが、地味な存在の駒ケ岳である。夏油温泉から登山道を歩き始めると、すぐにブナ林の中の登りとなる。このコースは山頂まで、ブナの林をたどることになる。ブナの新緑の季節に歩いていたら、途中のブナを鑑賞して戻るというハイカーに出会ったことがある。確かにブナの新緑を見るだけでも価値があるのかも知れない。ほとんどが正統的?ブナ林であるが、山頂近くになると、わい性化してくる。山頂には赤い神社がまつられている。
コースタイム:夏油温泉(2時間)山頂(1時間30分)夏油温泉


駒ヶ岳途中のブナ林

56)経塚山(岩手県)

経塚山は焼石連峰の一山で、連邦では最も奥深い峰である。この山に登るには、山中で一泊することになる。山中には金明水小屋があって、快適な一日が過ごせる。夏油温泉からは何とか日帰り登山が可能だ。暑い夏に登った時にはブナ林の木陰と、水が何よりの楽しみだった。ブナ林を抜ける風を感じ、この時こそブナ林の中は気温で5度以上も低いと実感。汗は噴出すが、根元で休むと汗は静まる。経塚山山頂付近ではお花畑に元気をもらっての山頂だった。
経塚山の名前は、宮沢賢治の作品には一編の詩にしか登場しない。にもかかわらず、賢治は経塚山を経埋むべき山としたのは、その名前であろうか。お経が埋められた塚を経塚と呼んだが、実際この経塚山に、埋められたのは経筒であろうという説がある。
 ひばりがないて
 はたけが青くかすんで居る
 その向ふには経塚岳だ
 山かならずしも青岱ならず
 残雪あながちに白からずだ  「軍馬補充部主事」
正月に焼石岳から経塚山へと歩いたことがある。とにかく、太陽の顔はなかなか拝めない冬の縦走だった。前夜は銀明水小屋に泊まって、焼石岳を越えて金明水小屋まで歩いたが、吹雪の中を彷徨い歩いたといった方が正しかった。
翌日は吹雪の経塚山を越えて、駒ヶ岳に登り、さらに瀬美温泉へと下った。雪は益々強く、下りでもラッセルをする始末。ついに途中でビバーク(不時露営)をしようと決心したが、メンバーは何としても温泉に浸かりたいという。結局明け方の午前二時に、瀬美温泉に到着。執念の温泉に入った時には、涙が出そうだった。

コースタイム:夏油温泉(2時間30分)山頂(2時間)夏油温泉


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