東北ブナ紀行(25 奥田 博

 秋田県も南北に長い県である。北部の青森県境は白神山地、南部の山形県境は神室山地、宮城県境には栗駒・虎毛山塊が横たわる。その共通キーワードは「ブナ」である。白神山地はいわずもがなの地域ですが、今回はあえて問題の山を紹介します。見栄えのするブナは、ない山です。また、秋田県南部の山は、山頂湿原という見事なビューポイントがあるがゆえ、見事なブナ林には目がいかない山。どちらも、ある意味でブナが見えない、見られない山である。

47白神山地・二ッ森と泊岳(秋田県)
 白神山地の南部、悪名高い青秋林道は二ッ森の手前で工事は止まった。今では、道路周囲に広がる伐採跡地が何とも痛ましい。秋田側はほぼ皆伐状態であったが、その奥地である青森側には豊かなブナ林が広がっていた。その森に狙いを付けたのが青秋林道であった。工事の阻止には長い時間を要したが、その先に待ち受けていた森林生態系保護地域指定、さらには世界遺産指定へのスピード感には、私には追いていけなかった。

今、二ッ森は白神山地を訪れる観光客で賑わっている。僅かに残されたブナという木をバスに乗って見にくる。鋭い山容を見せている泊岳は不遇の山である。登山口は「森林生態系保護地域」設定の大きな看板の脇であるが、入口を示す案内はない。僅かな踏み跡をたどるが、ここは伐採地の中。ブナなどあるはずもない。一旦、コルへ下って、今度は登り返しとなるところが、人気の無いゆえんかも知れない。わい性化したブナは見られるが、二ッ森ほど太いブナはない。山頂からは秋田側の見事に伐採された斜面を見せ付けられた。途中で見つけたシナノキの大木が、見事に輝いていたのが、救いだった。

コースタイム:登山口(1時間)泊岳(1時間)登山口、登山口(45分)二ッ森(45分)登山口

泊岳途中にあった見事なシナノキ

48)虎毛山
 山頂湿原の広がる虎毛山は、人気が高い。しかし中腹に広がるブナもまた味わい深いものがある。入口から古い林道跡を歩くが、変化に乏しい。やがて山腹に取り付くとブナの森に変わる。見上げたり、見下ろしたり、横から構えたりとカメラが忙しくなる。訪れた季節は秋。林道ではあまり紅葉は進んでいなかったが、

このブナ林は見頃だった。見頃は丁度ブナ林で、湿原は既に枯れていたから、微妙なものである。ところが、登山者は森を仰ぐでもない。森はなるべく早く通過する場所なのかも知れない。私も若い頃は、早く山頂にたどり着きたくて、森を見ない状態であった。しかしブナが被写体としても素晴らしいと気付いたのは、1982年の会津駒ヶ岳の山スキーであったから、ブナを意識してまだ25年しか経っていないことになる。高松岳との縦走路に出ると、ブナはわい性化して紅葉も汚くなっていた。

コースタイム:赤倉橋(1時間30分)急斜面取付き(45分)主尾根(45分)虎毛山(2時間)赤倉橋

虎毛山途中のブナ林は丁度紅葉の真っ盛りだった


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