東北ブナ紀行(23 奥田 博

 岩手県の奥羽山脈には素晴らしいブナ林が多く点在している。しかし太平洋側にもわずかだがブナ林は散見される。宮城県・金華山の海に面したブナは有名だが、三陸海岸近くにもブナの山はあった。霞露ヶ岳は、半島に残されたブナ、五葉山はブナ原生林に遷移していく過程が見られる将来が楽しみな森である。どちらも気軽に登れる山だけに、公園化されないことを祈っている。

43)岩手・霞露ヶ岳(かろうがたけ)

三陸海岸・山田町の半島にそびえる標高わずか500bあまり。この山には、海抜0bの海岸が登山口だということだけでも魅力的な山であるが、山頂付近には太いブナも散見された。
 登山口の波打ち際で、太平洋の荒波を受けて出発。潮騒を聞きながら、急坂をグイグイ高度を上げていく。せり出した尾根からは、美しいリアス式海岸が見下ろせる。アカマツの多い森を登るが、林床にはクロモジ、オオカメノキ、ヤマツツジなどの潅木が見られる。急坂を終えて尾根をたどれば、本州最東端のトドが崎灯台が眺められる。
 次第にアカマツに代わって、コナラやシデ類、カエデ類などの雑木林となる。次の尾根ではアカシデを主にブナなどが混じり出した。次の尾根では見事なブナが優先する森になる。距離にして500bの間で、次々と主役が代わるには自然の妙。山頂近くでは太いブナも見られる。山頂は森に囲まれて好ましいが、唯一「環境省」製なる不似合いな大きな看板が、雰囲気を壊していた。 下りは南の尾根を下ったが、イヌブナがまるで迷子のようにポツンとあった。まったく不思議な森だった。

コースタイム:海岸(2時間)山頂(1時間30分)下山口(30分)海岸



霞露ヶ岳のブナ林を行く

44)岩手・五葉山

五葉山のメインコースである赤坂峠から山頂への道には、立派なブナ林は存在しない。わずかに、中腹のミズナラ林に混じっているだけだ。しかも森全体にいえることだが、樹径は細く、まだ50年前後の若い木々が多い。この山は、伊達藩や南部藩の御用林であったというから、昔からこの山の木々は伐採されて藩に供給されていたのかも知れない。
 登山口近くの道路沿いにも製紙会社所有の民有林はミズナラやコナラ主体の見事な森を見せている。登山道沿いは、「五葉山自然観察教育林」に指定されている。こんな林は聞いたことがないが、指定はともかく行き交う登山者の何人が、この森の素晴らしさを感じているだろうか。三合目の賽の河原を過ぎると、森の中を歩くようになり、畳石の鳥居を潜って五合目周辺は実に美しい森が形成されている。今はナラを主体にした森だが、今後数百年かけてブナ林に遷移していく楽しみな森である。

コースタイム:赤坂峠(45分)畳石(1時間)山頂(1時間30分)赤坂峠



五葉山の自然観察教育林



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