東北ブナ紀行(20 奥田 博

 牛形山を知っている方は、山通といえる。そのくらいマイナーな山である。焼石連峰の北側に静かに連なっている。地元では夏油三山とも呼ばれて親しまれている。東北の秘湯のひとつである夏油温泉。その温泉を囲むようにブナの山々が連なる。経塚山、駒ヶ岳そして牛形山。いずれ劣らぬブナの山である。一方の丸子峠にいたってはまったくの無名。これらの山や峠は瀬川陽子さん等と夏油温泉から牛形山を経て丸子峠まで縦走した時に一気に実現した。

37)牛形山

牛形山は、山麓から眺めるとのっぺりとした牛の寝姿、あるいは牛の背中のような山容をしているところから名付けられたようだ。その姿に似ず登りは意外に急坂が続く。縦走路もアップダウンが続いて、決して楽をさせてはくれない。

  夏も終わりに近づいた8月下旬、登山口である夏油温泉から歩き始める。前日までの台風の影響か、入口にはミズナラの大木が倒れている。森の中に入っても、木の枝や葉がたくさん落ちていて、台風のすさまじさを物語る。林道を横切って本格的にブナの森に入っていく。ここのブナの森を歩くのは三度目だが、落ち着いたブナ林だ。「奥羽山脈のブナ林には共通の雰囲気がある」と同行の氏。日本海側のブナとは明らかに異なり、林床に笹が繁っているために雑然とした印象につながっている。牛形山山頂から落ちる枯れ沢も、今日は台風のせいか流れがある。水場で冷たく甘い水を飲み、水筒の水を入れ替える。水場からほどなく、牛形山分岐となる。ここからは、森を抜けての登りとなる。以前に比べれば泥濘の無い分、楽である。やがて山頂稜線に飛び出せば、山頂は目前だった。
 山頂では眺めを楽しみ、昼食を楽しむ。今日は先が長いので、早々に山頂を後にする。分岐まで戻り、そこから縦走路を歩みだす。尾根に移ってわい性化したブナの中を歩くが、次第に白子森の三角錐が迫ってくる。中々立派な山容だ。かん木帯を抜けると道は両側から夏草が被り、道がどこだか分からない。ヨツバヒヨドリ、アキノキリンソウ、アザミ類、ヒトツバヨモギのような大型の草が繁茂している。道は最後の岩場を回り込むと、360度の展望を誇る白子森山頂だった。山頂には2体の地蔵様が置かれていたが、昔出征の際に置かれたとか。ここから鷲ヶ森は目の前に見える。

牛形山 雪に曲げられるブナ

38)丸子峠

 大きなイチイの木を抜けると、鷲ヶ森山の山頂で大展望を味わう。ここから草原の細い尾根を下ると、次第にブナ林に入ってくる。ここは冬に登ろうとして、この尾根で退却した場所だ。丸子峠までは、中々着きそうで着かない。地図の最低鞍部よりも少し登ったところに十字路の分岐があった。我々は南の夏油温泉に直接下る道に入った。急坂を抜けると、見事なブナの林に入っていく。昨日の台風の仕業か高さ30mほどのブナの大木が倒れていた。道を探しながらくだる。それにしても地上に倒れると太くて大きな木の存在に唖然とする。倒木には普段は間近では見られない寄生植物やシダ類が見られた。その下も素晴らしい森は続き、次第に太いカツラやトチの木が混じってくると、間もなくキャンプ場であった。ここから車の置いてある夏油温泉までは、そんなに時間はかからなかった。

ースタイム:夏油温泉登山口8:2011:10牛形山12:1013:00白子森13:1013:50鷲ヶ森14:1014:50丸子峠15:2516:40夏油温泉

 

台風になぎ倒される

丸子峠はブナに囲まれた十字路

夏油温泉への下りはもっとも見ごたえのあるブナ林が広がる


戻るブナ紀行目次へ