東北ブナ紀行(18) 奥田 博

 東北のブナといえば、青森・秋田が本場のように思われる。白神山地に代表されるようにブナで名前を売った理由によるものが大きい。それ自体、悪いことではないが、白神以外はブナにあらずといった風潮が一部にあることは悲しい。岩手県は面積が広いだけあって、多くの優れたブナの森が点在している。今回の2箇所は、どちらも周りが放牧場であり、そこに残された僅かなブナ林であるが、見ごたえのあるブナ林である。

33)七時雨山

 七時雨山という魅力的な名前の山は、ご存知の方も多いだろう。この北側に広がる田代高原には七時雨山荘が建つ。この主人である○○さんは、この七時雨山を開発から守った一人だ。七時雨コンサートや観察会を開いて、この地の素晴らしさを訴え、そして守られたのだった。その優しい語り口から、思いの深さを感じ取ることができる。その守る運動に共感した画家の中垣淑子さんは、七時雨山の風景をスケッチにして、その風景の素晴らしさを伝えた。今でも、山荘では、そのスケッチ絵葉書が売られている。中垣さんとは七時雨山の冬の姿をスケッチしたいというので東側にそびえる西岳に登り、その西側のブナ林の見事さに感動したことがある。

 七時雨山には、そんなに大きな面積でブナ林は残されていない。何せほとんどが牧場であるから、牧場の境目にブナがわずかに残されているのみだ。南側では牧場から登山道に入るとブナが広がるが、むしろケヤキの立派な木が目に付くくらいだ。

北側では牧場から直ぐに尾根に取り付くと、若いブナの尾根になる。この尾根はこれから先が楽しみなブナだ。

 南登山口(2時間)山頂(1時間30分)北登山



雨に濡れる七時雨山のブナ

34)安比高原

 安比スキー場は東北ではもっとも派手に開発されたスキー場である。前森山の西面、北面、東面の270度をスキー場にしてしまったのだ。滑ってみると、スケールの大きさが分かる。

  そのスキー場の西側に広がる台地には放牧場が開かれていた。そこにはブナの原生林と二次林が広がっている。森の遷移が学習できる貴重な場所だ。

  森の中には道が開かれており、多彩なコース取りでブナを観察できる。冬にもアクセスが良く、歩くことができるが、容易ではないが、その美しさは例えようがない。北面口(2時間)南面口


安比高原のブナは2次林と原生林が混在する


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