東北ブナ紀行(17 奥田 博

 今年2005年は予想に反して大雪だった。雪が多いと道の無い山に登るチャンスが増えて、また楽しみである。今回は道の無い、雪の季節しか登ることの難しい山を2本紹介する。秋田県のみならず、道の無い山には未知のブナがたくさんある。また道の無い山では、無残なブナの姿を見る機会も多い。登山道から眺められるブナの風景は、極一部なのかも知れない。残雪期にしか目にすることのないブナ。何だかワクワクしませんか。

31)高松岳と山伏岳
 高松岳はグルリ周囲をブナ林に囲まれている。しかも泥湯からは、山伏岳を経て高松岳、そして泥湯といった具合に回遊コースをとることができる。西側の湯の倉温泉から高松岳を経て山伏岳、そして秋の宮温泉というコースもすてがたい。いずれにしても登山後の温泉を味わえる点もいい。

 高松岳への登山口からはいくつか小沢を越え、次第にブナ林の中を登るようになる。見事なブナの木も観察できるので、適当に休みながら登る。尾根に近づくにつれて、急な登りになるが、ここは頑張りところ。尾根に出れば、視界が次第に開けてくる。森林限界を抜けて展望の尾根道となる。湯の倉温泉への道を分けると、山頂に到着する。山頂小屋は、目の前で、こざっぱりした小さな山小屋だ。小人数向きの小屋だが、シッカリとした造りだ。

 ここからは北へ向かって尾根をたどる。すっきりとした尾根ではないが、時折展望の得られる尾根道を山伏岳へと向かう。小さなアップダウンを繰り返しながら、しっかりとした道をたどる。到着した山伏岳は、小じんまりとした好ましい山頂である。山頂からの展望は、高松岳と大差はない。

 泥湯温泉へと向かって下りにかかる。下りは、さして急でもなく、ブナ林の中、よく整備された道をたどる。やがて、車道に飛びだして、山行を終える。ここから滝が温泉である「湯滝」へと向かった。運良くギャラリーがいなければ、滝壺でゆっくりと温泉を味わうことが出来るのだが、残念ながらいつ行っても多くの人で賑わっている。

逆光に光るブナ

32)軍沢岳(いくさざわ)拳ヶ森

軍沢山の名は、何に由来しているのだろうか。国道112号線の鬼首峠をトンネル出口から道が沢を渡ったところで急な取付きを登り出す。新道の工事ですっかり丸裸にされて痛々しい。林のなかに入っても、急な斜面はシールの利きが甘く、苦労させられる。ブナ林が現われると、急な登りも一服する。尾根も広くなって、さっきの苦労は嘘のように楽しい尾根歩きとなる。降雪は無いが視界は悪い。それだけにブナ林の中は幻想的な雰囲気である。

  その上部から、何と斜面に切り開きが入っている。防火線だろうか幅十メートルの斜面が続いているのだ更に広い緩い斜面に出ると、霧が晴れ視界が出てきた。何と山頂は目前で、丸い白い丘というふうにあるではないか。

  山頂からは神室岳は雲の中から山頂だけ顔を出している。禿岳など宮城側は丸見えだ。下りは幅広い切り開きのために快適に滑る。雪質はブナ林の中の方が良いので林間の広いところを選んで快適に下っていった。冬のブナ林の中は雪質もいいことを痛感した。
尾根取り付き(2時間)山頂(1時間)取り付き

 

ブナに描かれた雪の造形


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