東北ブナ紀行(16) 奥田 博

 今年2004年は台風がたくさん上陸して、日本列島に大きな被害をもたらした。登山もその影響を受けて、雨や風に見舞われることが多かった。ブナの森も例外ではなく、何本ものブナが倒れ、たくさんの葉が落葉前に落ち、厳しい自然のありさまを垣間見た。風雨の中に身を置くことになると、カメラもザックの奥深く仕舞われてしまう。そんな雨の日、ファインダーから覗いたブナ林には別世界が覗けた。雨に妖艶さをみせるブナ、霧に包まれ安らぐブナ、風雨に耐えるブナなど、その表情をじっくりと観察することができた。雨もまた楽しである。

29)白神山地・崩山

青森・秋田県はブナ林を観光地にしている場所が現れた。暗門の滝遊歩道、高倉森遊歩道、岳岱、ミニ白神など白神山地周辺がその代表だ。この十二湖周辺はもっとも古い観光地であった。昔はブナ林を売り物にしてはいなかったが、近年白神山地が森林生態系保護地域に指定されると、ブナは商品化された。

 そんな背景はともかく、十二湖のブナ林は素晴らしいことには違いないが、特徴的なのは湖沼の美しさとブナ林の見事なまでの演出効果だろう。観光地化する前から美しさは変わっていないが、遊歩道が整備されて、歩きやすいために人の多いのが観光地の欠点。ブナと湖沼のハーモニーを味わうだけでも価値はあると思うのだが。十二湖を訪れる観光客と一緒に青沼の登山口まで歩く。この先からは我々だけで歩き始める。サワグルミ、カツラ、トチノキ、ブナなどの森の中を登る。次第にブナ原生林の中をたどるようになる。今回の白神三山の中では最もブナが原生的で素晴らしい場所である。根深さんのガイドの通り、道もよく整備されている。しかし登山道両脇の草が山頂まで見事に刈られていた。笹だけでなく、中にはギボウシの花など野草の多くが刈られていた。上部はブナにダケカンバが混じるようになる。やがて雲に覆われた山頂に到着した。下りでは霧に包まれた幻想的なブナ林の中、ブナの不思議な形をカメラに収めた。登山口に戻る前に登山口に近い場所に湧く清水に立ち寄った。最後にブナの香りをたっぷりと含んだ水を何杯も飲んで、満ち足りた気持ちで後にした。 十二湖登山口(2時間)崩山(1時間45分)登山口



霧に煙るブナはモノトーンなのに妖艶さを漂わせる

30)白神山地・太夫峰

 太夫峰は白神山地が森林性体系保護地域に設定され、それが世界遺産に登録された後に登山道が開かれた白神山地初めてのコースだ。少し解説しておくと、森林性体系保護地域には核心地域とそれを囲む緩衝地域から成っている。世界遺産ではコアとバッファーという表現になるが、この核心地域であるコアの部分は基本的に自然の推移にゆだね、人工物などは一切設置されない場所となる。緩衝地域であるバッファー部分は、教育的な人工物の設置は認められている。すなわちスキー場のようなものは設置出来ないが、森を鑑賞するというような教育的に価値の高いものは許される。この登山道は、そういった背景で造られた。太夫峰はバッファーの境界にある山である。そんな位置にあるため、ブナの森は確かに優れたものだった。

一の森峠登山口(2時間)太夫(1時間30分)登山口

今年はブナは不作だといわれるが、、、


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