桃洞滝


東北ブナ紀行(13) 奥田 博

 秋田県には優れたブナの森がたくさん点在しているといわれる。しかし実際にそこを訪れて見ると規模が小さかったり、ブナの森林の純度が高くなかったりと、肩透かしをくらったことが多々あった。昔はブナの森があったが、今はほとんど無くなったのが実態なのだろうか?

25)薬師岳

 和賀連峰はブナの森に囲まれている山塊といっても過言ではない。稜線は森林限界を抜けているが、中腹の登山道沿いや沢沿いでは純度の高いブナの森に出合える。薬師岳は和賀岳の前衛峰であるが、山頂は既に森林限界から飛び出しており、和賀岳はここで姿を仰ぎ見ることができる。
 登山口までの長い林道のアプローチを経て、登山口に運ばれる。山に取り付くと直ぐに、見事なミズナラ林に入る。結局、ほとんど森歩きに終始するのであるが、森は多様で、歩くことに飽きさせない。若い頃は森歩きが単調に感じられ、早く展望の稜線に出たかったものだ。
 次第にブナの見事な森に囲まれてくる。老いたブナ、中堅のブナ、若いブナが混じっている森は、人間社会に似ている。中堅のブナだけが経済価値が高いので伐採をした時代があった。老年には老年の、若年には若年の、それぞれの世代に合った役割がある、そんなことを考えさせる森だった。

 登山口(1時間)ブナ林・水場(1時間10分)山頂

26)桃洞沢(森吉山塊)

 森吉山の北に桃洞沢と呼ばれる沢がある。桃洞滝に感嘆の奇声を上げ、感動の言葉を並べた。沢全体がアスファルトで、滝は全部直登出来て、流れは太陽に輝いて、滝は怪しい造形美を持っていたけれども、やはり今考えると不思議な沢だった。取り付きで迷い、帰り路で迷って、不用意に体力を使ってしまったのも、沢に棲む何か神がかったモンの仕業だったのかも知れない。
 ノロ沢の流れがすっかり平凡な流れに変わった帰路に、忽然と見事なブナが現れた。沢に沿った湿地のブナだが、沢登りが陽なら、この森歩きは陰。その対照が面白い。ブナを始め多くの木々が見られるのは、沢に沿った森だからだ。
 ブナ林には多くの木々が混成している。ミズナラ、カエデ類、トチノキ、ホオノキなど中低木ではオオカメノキ、コシアブラ、アオダモ、リョウブなどなど。決してブナだけの純林ではないのだ。この混じり合いもまた、人間社会の構図である。男と女、弱者と強者、人種の違い、個性等。近年、ミズナラ林を伐採してブナを植えるということをやっている団体があると聞く。ブナは素晴らしい木ではあるが、ミズナラが劣るという問題ではない。森のメカニズムを知れば、人間に優劣がないように、木にも優劣がないのだ。そんなことを感じさせる森だった。

 クマゲラ保護センター(30分)ノロ川ブナ林(30分)桃洞滝【滝を見て戻るといい】

 

 


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