東北ブナ紀行(63 奥田 博

  昔話だが「山形50名山」(山形新聞社)という本を出版したことがある。その頃、山を選ぶ基準に「森」という概念は無かった。今は花も森も、その良さが分かるが、当時は「花」にしか目が向かなかった。今でも、同じ視点の方が見受けられるのは、同じ道を辿っているのだろう。今回紹介の2山は、無名だがブナ林の純度は高い。

91)五段山 1312m

五段山とは無名な山だが、飯豊連峰の東端、福島・山形県境にある。登山口は山形・飯豊町だがブナは県境の尾根に見られる。
川入から奥に開削された飯豊檜枝岐線林道は、開通直後に大雨で通行止めになってしまった。やっと再開した昨年、走ってみたら林道とは程遠い観光道路。こんな道路が全国展開されている「大規模林道」の実態だ。
飯豊トンネルを越えた所にある登山口に車を停め、歩き始める。沢を渡るといきなりの急坂が始まるが、もうブナ林。尾根の近くで次第に緩くなって尾根に乗ると立派なブナが現れた。尾根からは断続的に並木状にブナが連なっていた。山頂近くではさすがにブナは矮少化して厳しい飯豊稜線を思わせた。五段山に上がると飯豊本山が眺められた。
コースタイム:トンネル出口登山口(45分)尾根(1時間)五段山(30分)尾根(30分)登山口


尾根に並木状に連なる五段山へのブナ林

92)姥ヶ岳 1670m

月山・姥ヶ岳の南山麓には山形県でも有数のブナの森が広がる。ここはもっぱら積雪期に山スキーで訪れるエリアであった。ある冬、悪天候で姥沢からスキーで石跳川に向かって滑り降りたら、ブナの粒が揃っていることに気付きいつか新緑の時期に歩きたいと思っていた。調べると夏道があることが分かり、出掛けた。
 初夏の晴れた日、ネイチャーセンター前に車を置いて、石跳川〜湯殿山コル〜姥ヶ岳を経てネイチャーセンターへ下った。その姥沢から下りに訪れたのがブナの森。一歩はいると健やかなブナの森に歓迎を受ける。ここからはブナの森歩きに終始する。水場が時折現れるのはブナの森の特徴か。後半は、ネイチャーセンターの管理する遊歩道が整備され、野鳥の観察小屋やブナを始めとした動植物の解説板などが見られた。大ブナも多く、堪能しながら下ると「月山清水」と印された湧水が流れ出していた。もちろん冷たく、美味い水で、テルモスに詰めて、帰路飲みながら帰った。ブナの森の贈り物に感謝の一日だった。
コースタイム:姥沢(30分)沢横断(30分)観察小屋分岐(30分)月山清水(20分)ネイチャーセンター(全て下山)


大木の元、休みたくなるブナ広場


五段山


姥が岳


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